本来の居場所だった広告や挿画から逸脱。たどり着いたイラストレーションの現在地
引用したテキストにもあるとおり、イラストとは本来は広告やゲーム、もしくは小説などの書籍を媒体にして、何かを説明するためのファンクションを与えられて制作・利用されてきた。古くは中世のキリスト教世界における装飾写本がそうだし、あるいは日本の絵巻もそうだろう。つまり、先行して「何か語るもの」があり、文字だけでは取りこぼしかねない伝達内容を補完する用途を伴って生み出されてきた。
けれど、最近では「オタT」やアクリルスタンド、キーホルダーや果ては「痛車」といったイラスト単体にフォーカスしたプロダクトが生産され、かつ受容されている。このイベントで言えば『ソード・アート・オンライン』などライトノベルの挿画で知られるBUNBUNのブースもまさにそうだ。
BUNBUNによる『飾るオタT2.0 DEVIL+CALIBUR』。オタク文化の象徴「オタT」は着るものであると同時に、飾って楽しむものだととらえ、飾ることに特化したTシャツとして、服の型(パターン)や額を、一から制作
「絵師」文化の発達などによって、本来であればイラストに先行する「何か語るもの」を携えず、絵師自身のフィロソフィーなり想いなりをベースに作品としてのイラストが世に出される。そしてフォロワーを獲得し、本来の居場所だった広告や挿画から逸脱し、衣類や雑貨などの新たな場所にたどり着いていく。これが多分、企画者もステートメントで触れているSNSの世界線におけるイラストをめぐる状況なのだろう。
その見方で言うと、インテリアとしてのイラストレーションをコンセプトに添えてクリエイションされた米山舞のアロマディフューザーも面白いし、ヨウジヤマモトなどアパレルブランドとコラボレーションし、ファッションイラスト(モデルからアイテムまですべてイラスト)を手掛けてきたtamimoonのブースも面白い。
後者については、今回はジェンダーレスやエイジレスなど、アパレルにまつわるボディシェイミング(他人の体型を批判すること)的な感性に配慮するような制作をしている点も興味深い。「ポリコレ的な視点がある! 素晴らしい!」とか短絡な意味としてではなく、あくまでイラストレーションの話でありながら、それが二次元 / フィクションの世界ではなく、リアルの世界の話として語られているように感じるからだ。イラストはもはや、デジタルネイティブがネットにリアリティーを感じるように、ある世代やカルチャーの人々にとって十全な現実として存在しているのだろう。
イベント情報
- SSS Re\arise #1.5 EXTHIBITION KYOTO
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開催日程:2023年2月18日(土)~4月2日(日) 10:00-20:00
開催場所:ホテル アンテルーム 京都
入場料:無料PALOW.、米山舞、タイキ、セブンゼル、BUNBUNといった、『Progress Illustration vol.0』に参加したイラストレーターも出展。