展覧会から垣間見る、イラストレーションの矜持
私事で恐縮だけれども、筆者は普段いわゆる現代アートとかファインアートとか呼ばれる世界で仕事をすることがある。アーティストとか、キュレーターとか、コレクターとかギャラリストとか、あとはオークションとか美術館、アウラとかコンテクストとかいう専門用語を使う、市場としては小規模だが歴史とプライドには定評がある世界だ。
そしてその世界では、しばしばイラストやアニメ、漫画やデザインなどに影響を受けた、もしくはその世界のロジックやテクニックで制作された作品を下に見る向きがなくはない。理由についてはここでは割愛するけれど、とどのつまり現代美術のルール、もしくはドレスコードに抵触しているヤツはお断りだ、ということだ。
けれども、世代的なことなのか、村上隆やカオス*ラウンジといった先人のおかげなのか、現在ではイラストっぽいアートもコマーシャルギャラリーで展示されているし、コレクターの手に渡ったり、そこからオークションに流れて莫大なプライスがついたりしている。そして「半アート」の供給は止まることがないし、かつその動向に陰口を叩く人も止まることがない。何が言いたいかというと、現在のアートワールドではイラスト的ないしデザイン的な作品をめぐって「新しいアートだ!」と言う人と「なんじゃこら! あっちいけ!」とか言う人たちがいて争っているということだ。
ひょっとしたら、なかにはボラティリティー(変動の大きさ)の高い現代アートに意図的に参入するイラストレーターやその周辺のプレイヤーもいるかもしれない。いずれにせよ、どちらにも詳しくない人からしたらどっちでも同じことだろう。それは別にいいとして、ただそうしてイラストやアートの世界の線引きが交雑して見えにくくなっている現代のカルチャーシーンのなか、この『Progress Illustration vol.0』は、そのステートメントを見る限り、かつ会場を見る限りではイラストレーションに徹したイベントになっている。
さっきも書いたがアートの「ア」の字もなく、その接点さえ匂わせない。芸術祭と名のつくイベントなのに、だ。「私たちもアートです!」のような主張は見当たらない。それが筆者にはそれが面白く見えた。イラストにはイラストの歴史があり、カルチャーがあり、プレイヤーと生態系がある。その事実と矜持を守り抜いている様子が、何となしにイベントの背景に感じられたからだ。アートと、イラストやデザインなどクライアントを伴うクリエイションに上下の差はなく、ただ違いがあるだけだ。このイベントに学ぶべきことがある人は、きっと多いことだろうと思う。
イベント情報
- SSS Re\arise #1.5 EXTHIBITION KYOTO
-
開催日程:2023年2月18日(土)~4月2日(日) 10:00-20:00
開催場所:ホテル アンテルーム 京都
入場料:無料PALOW.、米山舞、タイキ、セブンゼル、BUNBUNといった、『Progress Illustration vol.0』に参加したイラストレーターも出展。