メイン画像クレジット:noiz
明治通りとキャットストリートの交差地点に位置する複合施設「SHIBUYA CAST.」の外装とランドスケープのデザイン監修を行ったnoizが、次世代型スマートシティの垂直版『SHIBUYA HYPER CAST.2』を公開した。
スマートシティとは、都市の抱える課題をICTなどの新技術を活用して最適化を図る持続可能な都市計画であり、都市部への急速な人口集中をはじめとした社会の変化や、新型コロナウイルスの影響による働き方の変革などで、新しいプラットフォームとしてより関心が高まっている。
noizが今回提示したデザインは、横に広がる都市を縦に伸びるビル内に収めるというコンセプト。実在する「SHIBUYA CAST.」をベースにデザインを更新したというが、見た目にもかなり特殊な形状となっている。しかしそれは、20世紀後半に流行したわかりやすい未来都市像というわけではなく、現在noizが実際に関わっているスマートシティのいくつかの要素をとりまとめ、現実に「存在し得る」スマートシティとして構想されているという。
横に広がる都市を縦型に、生活はよりコンパクトに
都市にはそれぞれの目的に合わせた様々な建物があり、単純にそれらを上に積み重ねると言っても無理がある。それをクリアするための重要な要素が「個別化」と「デジタル化」、そして「シェア」だとnoizは説明している。確かに今回のコロナ騒動で一気に進んだテレワーク化や、ワーキングエリアのシェアなど、現在の社会的動向に応じた展開と言えるだろう。
これまでの私たちはオフィスに出勤し、帰りにスーパーやコンビニで買い物して自宅に帰るというように、別々の複数のエリアを生活環境としていた。しかし、デジタル化が進むことで多くのことがリアルタイムで制御できるようになり、それは個人をベースとしたコミュニティ環境の構築と資産のシェアをうながし、空間と時間の大幅な節約になるとプロジェクトは予想している。
よりコンパクトでミニマムな方向に進んでいくという、noizが構想する未来の生活環境を紹介しよう。
私たちの生活環境はどのように変わるのか
■住宅
現在、生活するうえで洗濯機や冷蔵庫といった家電をはじめ、住み心地のよさを求める製品は生活必需品になっている。一方で、地価や家賃の高騰で質素な住宅を探すことを余儀なくされてもいる。この状況でも住み心地のよさを求める希望は変わらないため、人々は生活必需品をシェアすることに積極的になるだろうと予想している。そうすることでスペースの節約になり、居住スペースはよりコンパクトになるそうだ。
■緑
生活環境の向上という点でも緑地は重要な役割を果たすが、別の視点として食料の供給源としての役割を果たしてはどうかと提案している。企業に組み込まれた大規模農業の代替手段として、ローカルの庭園や果樹園を建物に組み込むことで食料供給の持続性に貢献しようという考えのようだ。都市汚染への取り組みと、耕作する土地の提供については気候制御と水耕栽培を備えた温室を使用することで解決できるという。
■エンターテイメント
ARやVRの登場によって空間的な制約がなくなることで、現在の劇場やホールといった大型施設は必要なくなり、その高さをより自由に使うことができると予測している。さらには、仮想現実においてはもっと自由な設計が可能になるので、まったく新しいレベルの没入型エンターテイメントが提供できるようになるという。
■健康&スポーツ
デジタル化が進むことで生活のペースが加速し、圧倒的な量の情報のインプットが日常的になると予測。精神面の健康と幸福がより重視されるようになると考えている。健康であるということが都市の重要な要素のひとつになり、日本のように高齢化が進んだ国では、医療施設の拡大に向けた開発が推進されていくことになるという。
■オフィス
大きな会議室や広々とした部屋といった大勢の人間を一か所に集める環境を提供する代わりに、仕事に集中しやすい場所や、リラックスすることで創造性を開放させる場所など、それぞれに応じたオフィスを提供することになるだろうと予測している。そしてそれぞれを分離して配置することで、さまざまなビジネス間でのシェアも可能になると考えている。
■商業・サービス
実店舗で販売を行うショップはオンラインショップと比べて商品数が限られていたり、商品を購入するのに多大な労力がかかるというデメリットがある。しかし、実際に商品を手に取って体験するという感覚的な部分が失われることはないため、注文や支払いなどの大部分はオンラインで対応し、実店舗は購入する製品を「試す」場所として機能することになると予測している。
そう遠くない未来の「未来都市」
これらの生活エリアを風向や日照条件を考慮したフレームに組み入れ、垂直方向へと伸びていったのが『SHIBUYA HYPER CAST.2』だ。そして、これらの生活エリアを人々は専用のエレベーターを使って自由に移動し、生活を送ることができるそうだ。また、それぞれエリアは専用のシャフトでつながれており、そのなかを自動制御されたドローンが飛び交って物の移動を行うという。まさにビルそのものがひとつの街として機能していると言えるだろう。
今回提示された次世代型スマートシティのコンセプトデザインは一見風変りに見えるが、構成している要素が実際に私たちの暮らす現代からの延長線上に設定されているのが興味深い。現在進行形でルームシェアやシェアハウスの文化は浸透しつつあり、お店では試着のみを行い、購入はオンライン上で済ますというアパレルショップもすでに登場している。これは何世紀も先の未来ではなく、私たちが実際に体験する未来かもしれない。
サイト情報
- 『SHIBUYA HYPER CAST.2』
- 『SHIBUYA HYPER CAST.2』AR体験