2022年11月5日から11日の7日間、渋谷の街で「都市とアートの関係性の模索」をテーマにした『第14回渋谷芸術祭2022~SHIBUYA ART SCRAMBLE~』が開催。この祭典を構成するコンテンツの一つとして、イラストレーションの表現の可能性を伝える展覧会『Progress Illustration vol.0』が行なわれた。
新進気鋭のイラストレーター7名をピックアップした企画展示コンテンツであるが、その背景からは企画者がイラストレーションにかける矜持が感じられるという。美術ライターの奥岡新蔵がここにレビューする。
イラストレーション、イラストレーターの場所を探るための展覧会
インターネットの発達により、イラストレーターの表現はデジタルへと移行し、SNSを始めとしたWEB上で、「作品として」発表される事が当たり前になった現在。しかし、イラストレーションは本来、伝えるべき情報を伝えるための「媒介として」として、広告やゲーム、書籍を始めとしたメディアで人々に親しまれてきた存在です。最新のイラストシーンが、どのような媒体と結びつき、何を表現し伝えようとしているか、その過程を様々な方法で展示し、今改めてイラスト表現の存在意義と、その可能性を本コンテンツにて、感じて頂ければと思います
これは『Progress Illustration vol.0』のステートメント、つまりイベント開催にあたって企画者が用意した序文をそのまま引用したものだ。なぜ引用したかというと、このテキストが本当に端的に的確に、このイベントの趣旨を語っていると思ったからだ。筆者が乱筆乱文を遊ばせなくても、ほとんど答えはここにあると言ってもいいくらいだ。
イベントそのものは、渋谷の街を会場にして展開される『渋谷芸術祭』を構成する企画として実施されていて、現代の売れっ子イラストレーター7名が衣類やファニチャー、映像や最新のプリンティング技術などによって思い思いに自作をリプリゼントし、それを通してイラストレーションの現在形の一端を見せる、という内容だ。
参加したイラストレーターはPALOW、米山舞、タイキ、セブンゼル、BUNBUN、寺田てら、tamimoonの7名。それぞれライトノベル、ゲーム、広告、トレーディングカードから歌い手とのコラボなど、アウトプット先のバリエーションが豊富なイラストレーターが並んでいる。
ちなみにSNSのフォロワーも非常に多い。イラストレーションに詳しくなくても、およそ現代カルチャーを享受しているなら、きっとどこかで彼ら / 彼女らの仕事は目にしているかもしれない。「イラストレーターの現在形」という縛りでセレクトし、ジャンル的なバリエーションを踏まえて、きっと企画者はイラストレーション界の切断面をプレゼンテーションしたいのだろうと感じた。
だが、面白いと思ったのはそこではない。面白いのは、企画者が、さっきのテキストのなかでただの一度も「アート」という言葉を使っていないことだ。アートの「ア」の字もなく、最初から最後まで、ステートメントの主語は「イラストレーション」である。参加するイラストレーターの内心まではわからないけれど、しかし企画者は彼ら / 彼女らの作品を、あくまでもイラストの表現手法や媒体、そのアウトプットの可能性を模索し、スタディーした結果として見せている。そこが、とても興味深い点だと思ったのだ。
はっきり言って現在では、少なくとも一般の消費者レベルではイラストやデザイン、そしてアートの区分がしにくくなっている。絵という形態でアウトプットされていたら、それがアートだろうが「半芸術」もしくは「アートっぽいもの」だろうが、もはや同質化しているのが実態ではないだろうか。
にもかかわらず、このイベントでは「イラストレーション」を軸に置き、そこからまったくブレていない。ネットカルチャーの台頭や受け手の変化によってイラストレーションの活動先はどう変わるのか。あくまでもこの展示は、イラストの受け皿としての社会が変質するなかで、イラストレーションの現在地の確認をあらためてしよう、という態度を崩さない。そしてそこにこそ、企画者の美徳と矜持があるように思われる。
イベント情報
- SSS Re\arise #1.5 EXTHIBITION KYOTO
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開催日程:2023年2月18日(土)~4月2日(日) 10:00-20:00
開催場所:ホテル アンテルーム 京都
入場料:無料PALOW.、米山舞、タイキ、セブンゼル、BUNBUNといった、『Progress Illustration vol.0』に参加したイラストレーターも出展。