自身の身体性を問い続け、表現を変化させていく。“Glass & Patron”では、子を宿した腹を晒す
FKA Twigsはかつて音楽そのものよりも、音楽に合わせて踊ることが何よりも好きだったと語っているが、彼女自身による身体表現は段階を踏みながら変化し、進化している。EP『M3LL155X』(2015年)収録の“Glass & Patron”のMVでは、ステージではしばしば披露していたヴォーギングのパフォーマンスを見せてくれる。そこで彼女は、クィアダンサーたちとドラァグボール(ドラァグクイーンらがダンスの技を競うショー)風のステージを展開するが、旧来的なジェンダーやセクシュアリティの規範を外れる官能を追究しているように見える。
FKA Twigs“Glass & Patron”MV。本作もFKA Twigsが自ら監督している
MVの前半では、FKA Twigsが子どもを宿した腹を晒す姿が映されるが、それもまた、自身の身体に対する問いを含んでいるだろう。子宮から出てくるのは子どもでなく淡い色の美しい布だが、それは彼女のダンス表現に使われるものだ。私見になるが、FKA Twigsの独自のビジュアル表現として、このビデオでは女性のリプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康と権利)をモチーフにしたのではないだろうか。身体はつねに変化するもので、女性やクィアはとくにその度合いが大きい。自身の身体性をアーティストとして問うてきたFKA Twigsがたどり着くべくしてたどり着いた主題だと言えるだろう。そしてこのことは、セカンドアルバム『Magdalene』(2019年)に通じることとなる。
FKA Twigs『M3LL155X』(2015年)を聴く(Apple Musicはこちら)
Google GlassやHomePodのCMに起用。テクノロジーにとって「アクセシブルな存在」
と、その前に、FKA Twigsが関わったテクノロジー関連のプロダクツとのタイアップの例も挙げておこう。
まずひとつめは、Google Glassをコンセプトとしたショートフィルム『#throughglass』(2014年)だ。
Google Glassはコンピュータービジョンやカメラが機能として使える眼鏡(スマートグラス)で、ビデオではGoogle Glassを装着したFKA Twigsが機能を使い、また、圧巻のダンスを披露してみせる。ここで求められているのは彼女の先鋭的――「未来的」なイメージに他ならないが、身体の可能性を拡張するものとしてのスマートグラスは彼女自身の表現とも通じるところだ。身体とテクノロジーのどちらか片方だけでは意味を成さず、それらが出会うことで生まれる体験があることを、このショートフィルムはスタイリッシュに示唆する。なお、本作もFKA Twigs自身がディレクションを手掛けている。
FKA Twigsが制作・出演したGoogle Glassのコンセプトフィルム『#throughglass』
もうひとつは、AppleによるHomePodのCMとして制作された『Welcome Home』(2018年)。
仕事から疲れて帰ってきたFKA Twigsが、「Siri、何か私の好きな曲かけて」と言うとアンダーソン・パークによる“'Til It's Over”が流れ、それに合わせて彼女が部屋で楽しく踊るという何ともキュートなもの。監督はスパイク・ジョーンズで、みるみるうちに部屋がずるずるっと動いて変容する様などはたしかにテクノロジーが駆使されているものの、絶妙にアナログ感が残っているところがジョーンズらしい味わいだ。
FKA Twigsが出演、スパイク・ジョーンズが監督したHomePodのCM『Welcome Home』。曲はアンダーソン・パーク“'Til It's Over”
FKA Twigsとしての表現のテイストとはかなり離れていることもあり、笑顔で踊る彼女の姿が新鮮だが、本作にしても、生活にテクノロジーが溶けこんでいる感覚がある。そのふたつをまたぐものとして、FKA Twigsのダンスパフォーマンス(身体性)が要請されたのだろう。彼女の存在それ自体が、テクノロジーにとって非常にアクセシブルなのである。
リリース情報
- FKA Twigs
『Magdalene』日本盤(CD) -
2019年11月8日(金)発売
価格:2,420円(税込)
Young Turks / Beat Records
YT191CDJP21. thousand eyes
2. home with you
3. sad day
4. holy terrain ft. Future
5. mary magdalene
6. fallen alien
7. mirrored heart
8. daybed
9. cellophane
10. cellophane, Live at The Wallace Collection(ボーナストラック)