メイカームーブメントの現在地。モノ作りはポップカルチャーへ

メイカームーブメントの現在地。モノ作りはポップカルチャーへ

テキスト・撮影
高須正和
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

より親しみやすく、ポップカルチャー化するモノ作り

音楽でも文学でも、あらゆる芸術的な活動は「努力するという面での仕事」と「楽しむという面での娯楽」、その両方の側面を合わせ持つ。21世紀はコンピュータゲームでもプロが存在する時代だ。マイコンボードや3Dプリンタによって「最初の一歩」が踏み出しやすくなり、インターネットによって知識のシェアが進んだ今、カルチャーとしてのモノ作りは広がり続けている。

メイカーのイベントが開かれるたびに、触発されて自分で始める人が増えていく姿は、マンガ好きがオリジナルキャラを創作したり、やがては同人誌を作りだす関係によく似ている。作り始めた制作物の何個かを仲間内に配布し広めていく、「Maker Pro」と呼ばれる人たちによるモノ作り版の同人活動も盛んだ。

クリエイティブユニットのギャル電もMaker Pro。様々な媒体で作品を発表しているだけでなく、電子工作についてのワークショップや、自分たちで設計した基板を販売するなど、カテゴリーを超えたMaker Pro活動をしている

デジタル工作機械やマイコンボードなどのモダンな工作テクノロジーは、文化が普及し愛好家が増えたことで、必要な機材も安くなりつづけている。今では3Dプリンタも2万円程度からAmazonで売られているし、電子工作に欠かせないマイコンボードも3,000~5,000円程度のものが多い。

美大の授業などでも使われている、代表的なマイコンボード「Arduino」。実売価格は約3,300円程度(写真提供:スイッチサイエンス)
美大の授業などでも使われている、代表的なマイコンボード「Arduino」。実売価格は約3,300円程度(写真提供:スイッチサイエンス)

現在はコロナ禍でイベントは開かれていないが、電子工作を始めるなら1時間から簡単にプログラミングに触れられるGoogleの「Hour of Code」や、イギリスの国営放送BBCが子供向け電子工作教材として開発した「micro:bit」など、はじめの一歩を踏み出すのに最適なコンテンツはたくさんある。こうした初心者向けのマイコンボードでも、インターネットサービスと連携(IoT)することで、自分の作りたいものを実現することができる。

日本語化されている「micro:bit」のチュートリアル(提供:スイッチエデュケーション)
日本語化されている「micro:bit」のチュートリアル(サイトを見る、提供:スイッチエデュケーション)

日本では、地域の子供たちがプログラミングを学ぶための非営利のコミュニティー「CoderDojo」も多く活動しており、コンピュータを使ったモノ作りをしたいときには、最寄りのコミュニティーに相談することもできるだろう。

CoderDojo Japan ウェブサイトより
CoderDojo Japan ウェブサイトより

アジア諸国に目を向ければ、そういったメイカーとは縁遠い印象のあるネパールのカトマンズやミャンマーのヤンゴンにも、モノ作りの同好者を支える部室的なメイカースペースと呼ばれる空間がある。そこでは、表現としてのモノ作りもあれば、自分たちの環境に合わせて生活必需品を作るモノ作りもあり、そのアウトプットは実に様々だ。

ネパール、カトマンズのメイカーイベント『Yantra 3.0』にて、電子工作マニアとファッション愛好家の共作「LEDドレス」。『Yantra3.0』では、アーティストとエンジニアの共作が目立った
ネパール、カトマンズのメイカーイベント『Yantra 3.0』にて、電子工作マニアとファッション愛好家の共作「LEDドレス」。『Yantra3.0』では、アーティストとエンジニアの共作が目立った

ミャンマーのメイカーであるシーはヤンゴンに自前のメイカースペースHyperLabを立ち上げ、様々な活動を始めた。その活動の1つは農業用の自動監視システムをドローンの設計から作るものだ。既製のドローンを使うのと違い、オープンソースの技術を元にして自分で作り上げたドローンは、様々な応用が可能になる。シーはヤンゴン工科大と連携して、HyperLabの活動を広げている。

ヤンゴンのメイカースペースHyperLab。若冠23歳のSi Tu Htunが開設し、ヤンゴン工科大などと連携している
ヤンゴンのメイカースペースHyperLab。若冠23歳のSi Tu Htunが開設し、ヤンゴン工科大などと連携している

僕とシーが出会ったのは、『Maker Faire Bangkok』だ。2018年に初めて会い、翌年もバンコクで再会して、その後僕がヤンゴンを訪ねることになった。コロナ禍が過ぎれば、彼が深センや東京の『Maker Faire』にも訪れる時が来るだろう。

産業振興という側面が強く表れたバブル期を越えて、今のメイカームーブメントはIoT、文化、教育の3つの側面で着実に広がっている。今なお、メイカーたちに熱い視線が注がれ続けているのはなぜか。それは彼らに宿る「作りたいものを思いつき、作りあげる能力」が、今後どんな社会でもますます必要になっていることの表れだろう。

イベント情報

『#分解のススメ』

「技術をブラックボックスにしない文化をつくる」という志の元、分解、リバースエンジニアリングの文化を広めるイベント

第2回 テカナリエ清水洋治代表 講演

2020年6月13日(土)
出演:清水洋治

第3回メカ / プロダクトデザイン #観察スケッチ 編

2020年6月20日(土)
出演:中垣拳、檜垣万里子

プロフィール

高須正和(たかす まさかず)

メイカー向けツールの開発 / 販売をしている株式会社スイッチサイエンスのGlobal Business Developmentとして、中国の深センをベースに世界の様々なメイカーフェアに参加し、パートナーを開拓している。メイカーフェアはアメリカ発、DIYや起業家の集まる世界的なハードウエアイベントで、同様のイベントはアジア各地で開催されている。高須は深セン/シンガポール/上海などで運営をサポートしている。インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、JETRO「アジアの起業とスタートアップ」研究員、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師なども務める。著書に『メイカーズのエコシステム』『世界ハッカースペースガイド』、訳書に『ハードウェアハッカー』ほか、Web連載も数多い。

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