メイカームーブメントの現在地。モノ作りはポップカルチャーへ

メイカームーブメントの現在地。モノ作りはポップカルチャーへ

テキスト・撮影
高須正和
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

音楽の演奏やスポーツを楽しむように、モノ作りを楽しむ人々

世界に現存する石器時代の遺跡から、石造りの槍や斧と一緒に、骨で作った笛が見つかっている。言葉も楽譜もない時代、笛に開けられた穴は現在の音楽に通じる音階で作られていた。この事実が表しているのは、人間は言葉を生み出す以前から、音楽を楽しんでいたということだ。

また同じ時代の遺跡からは、装飾品ほかの工作物も見つかっている。その中にはまだ目的がわからないものも多いが、モノ作りも音楽と並ぶ最古のリクリエーションだったことは間違いないだろう。

世界各地でモノ作りを楽しみ、作った物を披露しあうイベントが開かれているのをご存知だろうか。その代表的なものは『Maker Faire(メイカーフェア)』と呼ばれ、アメリカの団体からライセンスされて世界200か所以上で開かれている。

アメリカ西海岸の『Maker Faire』にて / アメリカのフェアは、『バーニングマン』にも共通する大規模工作が多い
アメリカ西海岸の『Maker Faire』にて / アメリカのフェアは、『バーニングマン』にも共通する大規模工作が多い
『Maker Faire Bay Area 2019』の様子 / 「まえこっかくのSUZUKI」さん(@create_clock)は自作した特撮用スケルトンを持って、東京を皮切りにアメリカ、中国、タイなどの『Maker Faire』に登場。世界のどこでも大人気
『Maker Faire Bay Area 2019』の様子 / 「まえこっかくのSUZUKI」さん(@create_clock)は自作した特撮用スケルトンを持って、東京を皮切りにアメリカ、中国、タイなどの『Maker Faire』に登場。世界のどこでも大人気

別の名称で開かれているものも含めると、その数は数え切れない。筆者はこのメイカームーブメント(デジタル技術を用いたモノ作りの潮流)を追いかけて、この11年間で107回の様々なメイカーイベントに参加し、イベントの主催も多くしてきた。

趣味が高じて、今はマイコンボードの製造、開発、輸入販売を行う会社の社員として仕事をしている。バンドマンが楽器屋の店員をしているようなものだ。

今は新型コロナウイルスのためにメイカーのイベントは休止しているけど、おそらくまた旅を再開するだろう。今のところ最後の海外イベントは、2020年の1月に開催されたバンコクでの『Maker Faire Bangkok 2020』だ。

『Maker Faire Bangkok 2018』での1コマ。バンコクでは、毎年フェアに合わせてLEDなどで自作の装飾をしたメイカーが練り歩くナイトパレードが行われる。ナイトマーケットが賑わうタイならではの催し
『Maker Faire Bangkok 2018』での1コマ。バンコクでは、毎年フェアに合わせてLEDなどで自作の装飾をしたメイカーが練り歩くナイトパレードが行われる。ナイトマーケットが賑わうタイならではの催し
筆者が撮影した『Maker Faire Bangkok 2020』での様子 / ゴーカート、自転車を改造した綿飴マシン、自作楽器で作ったバンド、『スターウォーズ』のコスプレ、そしてLEDで自分たちを装飾した人たちによるパレードが行われ、日本人らしき人も多い。人々は音楽の演奏やスポーツを楽しむように、国境を超えてモノ作りと共有を楽しんでいる

今回の新型コロナウイルスでも世界各地でメイカーたちはDIYでフェイスシールドやマスクを自作し始め、設計データを共有している。こうしたオンラインでメイカー同士、制作物をシェアして見せあい、影響を与えあうコミュニティー活動も盛んだ。

産業として注目されたメイカームーブメント

インターネットと音楽制作ツールの普及でDTMの世界的なムーブメントが起こったように、インターネットとデジタル工作機械(3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタルデータで加工ができる機械)が普及し始めたことで、2010年ぐらいからDIYモノ作りは新しい時代を迎えつつあった。

2012年、『フリー』『ロングテール』などの著書で有名なクリス・アンダーソンが『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』を出版したころから、その流れはお金と結びついて一気に加速した。この頃からクラウドファンディングで数億円の受注獲得を成功させる企業が続出し、世界中でDIYモノ作りをスタートアップ企業や産業振興と結びつけるムーブメントが起った。

クリス・アンダーソン『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』2012年、NHK出版
クリス・アンダーソン『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』2012年、NHK出版(Amazonで見る

2014年にはアメリカのオバマ大統領がホワイトハウスで『White House Maker Faire』を実施。さらに2015年にはそれまでエリート志向だった中国で、市井からのイノベーションを進めるために、ベンチャー起業への規制緩和などを行う「大衆創業・万衆創新(だれでも起業できる、みんなでイノベーションを起こす)」という大キャンペーンが始まった。

これまで、大学や大企業の研究所が生み出してきた数え切れないほどの発明や、月に人を送り届けるような国家プロジェクトがあるいっぽうで、手弁当のガレージから生まれるイノベーションには、大きな可能性が残されている。

Appleの最初は、アメリカ西海岸で行われていた「ホームブリュー・コンピュータ・クラブ」というコンピュータ愛好会の集まりで、手作りのコンピュータ基板「Apple Ⅰ」を100枚販売したことから始まった。スティーブ・ジョブズもウォズニアックも、みんなでハンダ付けをして製品を作っていたと伝えられる時代だ。

しかし、21世紀の今、ハードウェアのビジネスはソフトウェアほどの急成長が難しい、というのが現実だ。時代に即したハードウェアを最適な方法で作り続けるためには、自社で工場を持ち、多くの従業員を抱え、自らが大企業になる必要がある。会社の急拡大が可能な中国からはDJI(世界最大手のドローンメーカー)のような新しいハードウェアをすぐ大量生産する世界的な企業が続々出てきている。

『Maker Faire Shenzhen 2019』でのスタートアップ「M5Stack」の展示ブース。同社の販売するプロトタイピングモジュールは世界のメイカーたちに支持され、最初の製品を出してからわずか2年で従業員が50人以上にまで成長した
『Maker Faire Shenzhen 2019』でのスタートアップ「M5Stack」の展示ブース。同社の販売するプロトタイピングモジュールは世界のメイカーたちに支持され、最初の製品を出してからわずか2年で従業員が50人以上にまで成長した

多くのハードウェアスタートアップが成長を続け、インターネットに接続するためのシンプルなハードウェア、いわゆるIoT端末の開発規模が年々拡大していることは事実だ。一方でハードウェアスタートアップへの投資バブルは2014~2017年頃がピークだったといえるだろう。

一番大きいバブルが生まれた中国ではその落差も激しく、バブル期に創業した多くのメイカースペースや投資集団は鞍替えを迫られた。かつての熱い視線は、現在AIなどに移っている。

しかし、「モノを作ること」のムーブメントは今も加速し続けている。「作るものを自分で考え、それを実際に作り上げる」という行為がイノベーションの第一歩であることは間違いない。メイカームーブメントへの注目は、従来とは異なる面からますます大きくなってきているのだ。

イベント情報

『#分解のススメ』

「技術をブラックボックスにしない文化をつくる」という志の元、分解、リバースエンジニアリングの文化を広めるイベント

第2回 テカナリエ清水洋治代表 講演

2020年6月13日(土)
出演:清水洋治

第3回メカ / プロダクトデザイン #観察スケッチ 編

2020年6月20日(土)
出演:中垣拳、檜垣万里子

プロフィール

高須正和(たかす まさかず)

メイカー向けツールの開発 / 販売をしている株式会社スイッチサイエンスのGlobal Business Developmentとして、中国の深センをベースに世界の様々なメイカーフェアに参加し、パートナーを開拓している。メイカーフェアはアメリカ発、DIYや起業家の集まる世界的なハードウエアイベントで、同様のイベントはアジア各地で開催されている。高須は深セン/シンガポール/上海などで運営をサポートしている。インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、JETRO「アジアの起業とスタートアップ」研究員、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師なども務める。著書に『メイカーズのエコシステム』『世界ハッカースペースガイド』、訳書に『ハードウェアハッカー』ほか、Web連載も数多い。

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