中沢新一が語る新しい都市生活 人 と 自然 の適切な距離感

中沢新一が語る新しい都市生活 人 と 自然 の適切な距離感

2020/07/03
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

いまこそ、全体を一気に把握していく思考モデルが重要だと感じています。

―つまりITを全面的に礼賛するのではなくて、そのメリットを取り入れながら、人間の本質的な問題を探っていく、ということでしょうか?

中沢:ITは生活の無駄をはぶくためのものです。あくまでも主体は人間ですから。この先には、ITによって得られる経験とは違う人間の外的な能力が発見されると僕は考えています。そして、これは本当なら日本人が得意としてきた思考法でもあります。西洋的な白と黒に二分化して理解するのではなく、合理性と柔軟性を和合させ、全体を一気に把握していく思考能力というものが日本にはあった。『アースダイバー』とはそのことを気づかせるための仕事であったと思っています。機能一辺倒で作られていると思われた都市が、じつはそうではないんだということを掘り出し、人間の知性、サイエンスというものが計算能力だけではないことを検証しようとしています。

―この記事は、5Gという新しい通信規格について考えるものでもあるのですが、この技術を使うことで自動運転や遠隔手術のようなテクノロジーの発展が見込まれます。見方を変えると、これはデジタルを限りなく身体化させるものとしても把握できる気がします。ひょっとすると、中沢さんがおっしゃる全体把握の一助にもなるのではないでしょうか?

中沢:僕は、けっこう新しいもの好きなんです(笑)。新しい技術が現れるときに働く人間のロゴスはとても興味深い。その先にあるものにはつねに興味があります。

たとえば「世界は複雑系でできている」という考え方が生まれた背景には、科学や哲学の発達が大きく影響していますが、なによりも未来を見通すような人間の先見性こそがもっとも強く働いていると思います。つまり、我々は未来を先取り的に模倣することによって、世界を知ろうとしている。そしてITのような技術は、それを実際に目にするための助けです。しかし、未来を模倣するためには技術だけでは足りない。人間の知性を引っ張りあげて、本当に未来的な文明を築いていく探求が求められています。

そういった探求の学問は、ヨーロッパでは「形而上学」と呼ばれ、哲学の土台になってきました。ここしばらくは、形而上学のような古めかしくて宗教のような考えはダメだと否定されてきたけれど、むしろ技術や科学はそちらに接近しつつある。これはとても面白い状況だと思います。

―そういった状況で、先ほどおっしゃった「コロナのアースダイバー」の研究が進むとこれまでとは異なる世界が見えてきそうです。

中沢:そうですね。やはり大事なのは全体性なんですよ。人間の知性には限界があった。だからこそ世界の全体性に対して、有効なフレームを当てはめてみることで一生懸命理解しようとしてきたのが、これまでの学問の主流でした。あるいは、そのフレームをレイヤー的にたくさん重ねていくのがコンピュータの認識論理でした。

それに対して、たとえば『文明の生態史観』(中公文庫 / 1967年)を記した梅棹忠夫や、日本の霊長学を進めた今西錦司ら京都学派の学者たちは、全体を一気に把握していくモデルを作るのが上手で、僕はそういった大先輩方の仕事に共感と憧れを持って研究してきました。僕自身もそういうものの考えを大切にしてこれまで仕事をしてきましたが、いまこそ、そういった全体把握のモデルが重要だと感じています。

問題は政治に特化したフレームだけではないはず。自然や地球全体に関わる大きな問題として考えることが大切なんです。これを考えていくのは非常に難しい。けれども、考えることはとてもおもしろいことなんです。

プロフィール

中沢新一(なかざわ しんいち)

1950年山梨県生まれ。宗教学・人類学・民俗学・現代思想など、学問の枠を超え、体当たりで人間の「こころ」を探る研究で知られる。主著に『チベットのモーツァルト』(サントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)、『対称性人類学-カイエソバージュV』(小林秀雄賞)、『アースダイバー』(桑原武夫学芸賞)など多数。近著に『レンマ学』がある。2011年より明治大学・野生の科学研究所所長。

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