日本では難しい、街全体を巻き込んだフェスの許可取り。そのムードを渋谷から変えていきたい
―「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」は5Gの認知拡大がひとつの目的になっていると思いますが、なぜエンターテイメントが主軸になったのでしょうか?
長田:私は携帯電話会社に勤めていたことがあるのでよくわかるのですが、新しいテクノロジーを多くの人に試してもらうのってすごく難しいんです。古い端末で問題ない人の方が大半なので。現段階で積極的に5Gを試そうと思う人の方が少ないわけです。とはいえ、たくさんの人に体験してもらわないと世の中に新しいテクノロジーを根付かせることはできません。
じゃあ、その手段として何がいいかと考えると、堅苦しいものよりはワクワクするものがいいですよね。ただ、それを実現させていくためには、さまざまな課題や規制をクリアしていく必要があります。そのためには実験をしながら事例を作っていかないといけません。
―事例?
長田:私は前職でレッドブル・ジャパンに勤めていたのですが、その際にF1カーを浅草寺で走らせたことがありました。浅草寺への提案や説明、警察への許可取りなど、いろんな課題を解決しないといけなかったのですが、それらをきちんとクリアにしたうえでエンターテイメント化して発信することができて、世界中から大きな注目を集めることができました。
―そういう前例を、渋谷という街ぐるみで作っていこう、と。
長田:海外の事例だと『SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)』なんかは、イベントのために一般の道路を封鎖して街全体が会場になったりするんですけど、それは行政の受け入れ態勢が整ってないとできないことですよね。歩行者を優先する仕組みやお店がわかりやすくラッピングされてたりなど街全体のフェス感が素敵だなと感じました。
海外だとそれが割とすんなりとできる。でも、日本で実現させようとすると許可取りだけで数年以上かかることもあるので、もっと柔軟に対応できるようにしていきたいと思っています。そういうムードを、まずは渋谷で作っていければいいなと考えています。
行政の「課題解決型」ではできない、未来に投資して街を発展させていく活動
―いち企業ではなく渋谷区の事業として取り組むのは、長田さんが前職で企業として「できること」の限界を感じたことが大きいのでしょうか?
長田:先ほどのF1のほかにも「レッドブル・エアレース」(2019年まで開催していた、曲技飛行パイロットによるエアレース)のときは千葉市に、「レッドブル・クリフダイビング世界選手権」(2016年に開催された、落下競技の世界選手権)のときは和歌山県にご協力いただいて開催することができました。それで「またやってください」という声もあったのですが、ひとつの企業が大きな金額を伴う事業を継続的にやり続けるのはすごく難しくて。
その一方で行政のプライオリティは、道路が壊れたら修復しないといけないとか、今なら新型コロナウイルスの対策とか、税金の範囲だけでやろうとするとどうしても「課題解決型」になってしまうんですね。でも、それだけだと未来への投資がなかなか進まず街自体が発展していきません。そこで、行政の枠を超えていろんなことにチャレンジして、アクションして、修正して、またさらに次のことをやっていくために、と誕生したのが、私が所属している「渋谷未来デザイン」です。企業や団体、または個人とつながって税金の範囲では取り組めないことに着手し、オープンイノベーションによって社会的課題の解決策や可能性を生み出すことを目的にしています。
組織や個人がそれぞれ持っている経験や知識って、一人だけで活かそうとしてもうまくいかないことが多いと思うんですけど、お互いを掛け合わせるとそれが2倍、3倍になる可能性がある。この「渋谷未来デザイン」は、そういう可能性を作っていけると思うんです。
プロフィール
- 長田新子(おさだ しんこ)
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AT&T、ノキアにて情報通信及び企業システム・サービスの営業、マーケティング及び広報責任者を経て、2007年にレッドブル・ジャパン入社。最初の3年間をコミュニケーション統括、2010年から7年半をマーケティング本部長として、日本におけるエナジードリンクのカテゴリー確立及びレッドブルブランドと製品を日本市場で浸透させるべく従事し、9月末にて退社し独立。趣味はスポーツ観戦・音楽ライブ鑑賞、ゴルフ、海など。