なぜ渋谷は変われたのか? 未来の課題を解決する、未来デザイン思考

なぜ渋谷は変われたのか? 未来の課題を解決する、未来デザイン思考

2020/04/23
インタビュー・テキスト
村上広大
撮影:豊島望 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

渋谷は今、未来の都市の可能性を模索している。それを牽引しているのが、2018年4月に設立された一般社団法人「渋谷未来デザイン」だ。この組織は、ひとつの主体だけでは実現できなかった課題に対し、行政、企業、個人などをつなぎ、オープンイノベーションによる協働・共創を推進するハブの役割を担う。そして社会的課題の解決策をデザインし、渋谷、東京、日本、世界へと展開していくことを構想している。現時点で20以上のプロジェクトが同時進行で動いているそうだが、なかでも今後の展開が大きく期待されているのが、渋谷未来デザインとKDDI、渋谷区観光協会が主幹事になり、パートナー企業30社以上とともに取り組んでいる「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」だ。

今後、アート、音楽、ファッションなどのエンターテイメントを5Gと融合させることで、バーチャル空間上に「もうひとつの渋谷」を生み出し、現実とバーチャルをつなぎ合わせていくという。近年、渋谷駅を中心に劇的な都市開発が進んでいるが、そうした変化の渦中にある街の中で本プロジェクトはどんな役割を果たしていくのだろうか。立ち上げから携わっている渋谷未来デザインの理事兼事務局次長を務める長田新子に話を伺った。

飽和状態にある渋谷駅周辺。バーチャル空間上に「もうひとつの渋谷」を作る

―今年の1月にスタートした「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」は、バーチャル空間上に「もうひとつの渋谷」を生み出すことを掲げていますが、具体的にどのようなことを考えているのでしょうか?

長田:渋谷区の長谷部健区長は、渋谷をロンドン、パリ、ニューヨークと並べるくらい存在感のある街にしたいと構想を練っています。それは渋谷区の「基本構想」にも掲げられていて。ただ、そのためには渋谷という街の仕組み自体を変えていく必要があるんじゃないかと私たちは考えています。

渋谷区基本構想ムービー(渋谷区基本構想ハンドブックはこちらから

長田:実際問題、渋谷駅周辺は飽和状態にあるというか、これ以上コンテンツを作っていくのが難しくなってきているんです。液晶ビションや広告の枠も出せる数が決まっています。それならば、現在の状況や時代の流れもあり、ニーズにあった新しい空間を作った方がいろんなことができる可能性があるんじゃないかと。

加えて課題だと感じているのが、渋谷という街の魅力が多くの人に伝わっていないことです。観光客には、駅前のハチ公やスクランブル交差点で写真を撮ったらさっさと浅草に移動する、みたいな現象が起きていて。そうじゃなくて、渋谷の街を歩くともっと楽しいことがあるということを、わかりやすい形で訴求できないかと考えています。

例えば、渋谷駅に降りたときに一人ずつパーソナライズされた情報をARやVRを活用して表示させてみるとか。もしくは、渋谷に来たくても来られない人に、渋谷を疑似体験させることもできるかもしれないですよね。そうやって、リアルな渋谷とバーチャルな渋谷の両方を使ってできることがあるんじゃないかなと。

長田新子(おさだ しんこ)<br>AT&T、ノキアにて情報通信及び企業システム・サービスの営業、マーケティング及び広報責任者を経て、2007年にレッドブル・ジャパン入社。最初の3年間をコミュニケーション統括、2010年から7年半をマーケティング本部長として、日本におけるエナジードリンクのカテゴリー確立及びレッドブルブランドと製品を日本市場で浸透させるべく従事し、9月末にて退社し独立。趣味はスポーツ観戦・音楽ライブ鑑賞、ゴルフ、海など。
長田新子(おさだ しんこ)
AT&T、ノキアにて情報通信及び企業システム・サービスの営業、マーケティング及び広報責任者を経て、2007年にレッドブル・ジャパン入社。最初の3年間をコミュニケーション統括、2010年から7年半をマーケティング本部長として、日本におけるエナジードリンクのカテゴリー確立及びレッドブルブランドと製品を日本市場で浸透させるべく従事し、9月末にて退社し独立。趣味はスポーツ観戦・音楽ライブ鑑賞、ゴルフ、海など。

―なるほど。渋谷の街の課題を、バーチャルを使って改善していくということですね。

長田:渋谷区って、駅周辺以外にもいろんな顔があるんです。例えば、表参道と裏参道を軸にして街を見るとちょっと違った見え方がしますよね。明治神宮が中心にあって、その付近に代々木公園とか参宮橋、原宿がある。あとは、歩いて行ける範囲に静かな住宅地があり生活があったり。少し離れた場所だと商店街らしさが漂う幡ヶ谷なんかもありますし、ナイトカルチャーが盛んな円山町みたいな場所もある。なかなか振り幅が広いながらもコンパクトでユニークな街だと思います。

―そういった渋谷区に点在するものをつなげて、線にしていくことを考えているのでしょうか?

長田:まさにこのプロジェクトができることが、点を線にすることだと思っていて。渋谷に住んでいる人にとっても「こんなものがあったんだ」という発見があるものにしたいんです。

―そういう意味ではただバーチャル空間を作るのではなく、うまくリアルと結びつけることでシナジーを生み出すイメージが近いのでしょうか?

長田:そうですね。リアルな渋谷があるからこそ、バーチャルな渋谷が生きると思うので。なんでもバーチャルにしてしまうのであれば、インターネット上で完結してしまいますし。

渋谷ハロウィンにしても、あれだけ人が集まるのに、お店の売り上げに直結しないらしいんですよ。本来なら10倍くらいは上がってもいいじゃないですか。でも実際は、酔っ払った人がトイレを使うだけで何も買わない。その一方で、明治神宮は初詣に300万人以上の人が集まりますが、個人の平和だけでなく、日本や世界全体の平和を願い、他を思いやる日本人の特質が参拝の秩序を維持し、そのこと自体が文化となっているように思います。そういう意味では、人が何を目的として行動するかがキーなんじゃないかなと。

だから、何か仕組みを変えるだけで実現できることってたくさんあるんじゃないかなって。

プロフィール

長田新子(おさだ しんこ)

AT&T、ノキアにて情報通信及び企業システム・サービスの営業、マーケティング及び広報責任者を経て、2007年にレッドブル・ジャパン入社。最初の3年間をコミュニケーション統括、2010年から7年半をマーケティング本部長として、日本におけるエナジードリンクのカテゴリー確立及びレッドブルブランドと製品を日本市場で浸透させるべく従事し、9月末にて退社し独立。趣味はスポーツ観戦・音楽ライブ鑑賞、ゴルフ、海など。

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『CUFtURE』(カフチャ)は、au 5Gや渋谷未来デザインなどが主導する「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」とCINRA.NETが連携しながら、未来価値を生み出そうとする「テクノロジー」と「カルチャー」の横断的なチャレンジを紹介し、未来志向な人々の思想・哲学から新たなヒントを見つけていくメディアです。そしてそれらのヒントが、私たちの日々の暮らしや、街のあり方にどのような変化をもたらしていくのか、リサーチを続けていきます。