東急×パルコ対談 再開発やコロナ後、次世代の渋谷を考える

東急×パルコ対談 再開発やコロナ後、次世代の渋谷を考える

2020/07/01
インタビュー・テキスト
村上広大
撮影:前田立 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

個人経営のお店などアンダーグラウンドカルチャーが盛り上がって、街の魅力ができていく

―手塚さんはどのように感じていますか?

手塚:オフィスの開発を東急さんにやっていただいたことが、街の成熟という意味では重要だと思っていて。昔は若者の街のイメージが強かったと思うんですけど、IT系企業が進出してきた頃から街の雰囲気が大きく変わった気がします。いい意味で年齢層が広がったというか。IT系企業に勤めている人はリベラルな気質が強く、しかもビジネスだけでなくファッションやカルチャー、アートにも一定の関心がある場合が多いので、さらに多様な価値観が許容されるようになった気がします。

そういった変化はなんとなくの肌感覚として持っていたので、渋谷PARCOのリブランディングにあたっても「ノーエイジ」「ジェンダーレス」「コスモポリタン」をテーマとして掲げ、フロアをメンズとレディスでセグメントしないようにしたり、メインカルチャーだけでなくサブカルチャーの要素もミックスしてみたりといった工夫を凝らしたんです。

建て替え以前の渋谷PARCO
建て替え以前の渋谷PARCO
建て替え工事中の渋谷PARCO(©️MASH・ROOM/KODANSHA ©️Kosuke Kawamura ©️TAKAMURADAISUKE)
建て替え工事中の渋谷PARCO(©️MASH・ROOM/KODANSHA ©️Kosuke Kawamura ©️TAKAMURADAISUKE)

―ビジネスとカルチャーというカテゴリーも分ける必要がなくなっているのかもしれないですね。両方を一緒に楽しめるというか。

柏本:確実に。それぞれの嗜好性が多様化することで、マスだとかマジョリティだとかっていう言葉もなくなっていくんじゃないですかね。従来のマーケティングではなかなか捉えられなくなってくるので、より本質的な部分が重要になってくる気がします。

手塚:パルコや東急さんって、メインカルチャーというか、オーバーグラウンドの仕事をしていると思うんですけど、その部分が発達して街が成熟してくると隙間からアンダーグラウンドカルチャーが盛り上がって、周辺にユニークな個人経営の店とかができて、それによってさらに街の魅力ができていくんじゃないかなと思います。

―そうすると、今後はそうしたアンダーグラウンドのカルチャーが重要になるわけですね。

手塚:特にパルコはそのつなぎ目みたいな役割を果たしたいと考えているので、スナックや横丁にありそうなお店にも出店していただいているんですけど、そういった動きが活性化することでさらに街が盛り上がっていけばいいですよね。

―浜本さんはいかがですか? 開発事業者の目線もあると思うのですが。

浜本:渋谷の特徴って表参道、代官山、中目黒、広尾といった周りの街がすごく魅力的なことだと思うんです。しかも歩いて行ける距離にある。だから、駅周辺のビルも駅構内やビルだけでは完結せず、自然な形で街に出られるような設計を凝らしていて。

―たしかに渋谷駅周辺はかなり歩きやすくなった印象があります。並木橋の方にも渋谷ストリームを抜けて自然な形で行けますよね。あと、宮益坂方面と道玄坂方面が以前は分断されていたのですが、動線が確保されてきた気がします。

浜本:再開発にあたっては、「アーバン・コア」という縦軸の動線を盛り込むと同時に、実は横軸の動線も意識していて。宮益坂上の渋谷ヒカリエから渋谷スクランブルスクエア、渋谷駅と渋谷マークシティを抜けて道玄坂方面に抜けられるように動線を整備しているのですが、そのルートだと一度も地上に降りることなく移動することができるんです。そうやって人々が自由に歩いて周辺の街にもっと気軽に移動できるようになれば、渋谷の谷に流れ込んだエネルギーをうまく巡回させることができるんじゃないかなと思っています。

SHIBUYA109のカリスマ店員で盛り上がったギャル文化や、原宿に集ったクリエイターから生まれた裏原文化。次なる渋谷のキーパーソンとは?

―先ほど話題に出た「働く街」としての渋谷の魅力について、みなさんはどのように考えていますか?

浜本:渋谷はずっとオフィス不足だと言われていたのですが、渋谷ストリームや渋谷スクランブルスクエアができたことで、Googleさんをはじめ、かつて渋谷にオフィスを構えていた企業が戻ってくるケースも増えているんですね。その理由はいろいろあると思うんですけど、あるときBtoC事業に取り組んでいるIT系企業の方になぜ渋谷がいいのかを聞いたところ、「一歩外に出れば、すぐにマーケティングができるから」とおっしゃっていて。多様な人がいるからこそ、渋谷という街に魅力を感じる人は多いんだろうなと思います。

手塚:実際にパルコのプロモーションをやっていて感じるのは、渋谷の街は発信しやすいんですね。新しいサービスとかイベントをやるにしても、渋谷というだけで話題性が高まるし、情報の受け取られ方も他の街とは全然違うんです。だから、IT系企業も拠点にしたがるんでしょうね。

―たとえば、これまでSHIBUYA109にカリスマ店員がいたことでギャル文化が盛り上がったり、裏原宿に才能あるクリエイターが集まることで裏原ブームが巻き起こったりしました。そういう場と人の掛け算がカルチャーを生むうえで必要になると思うのですが、今後どのような人がキーパーソンになっていくと思いますか?

寄本:なかなか難しい質問ですね……(笑)。東急では今まで「エンタテイメントシティSHIBUYA」をスローガンにして、たくさんの人に渋谷に来てもらおうと言っていたんです。でも、それってエコシステムじゃなくて。来てもらうためには誰かが集客する必要があるじゃないですか。それは経済活動としてはもちろん大切なんですけど、実際のところ体験したい人と発信したい人って状況によってどちらにでもなり得るわけで。だから、特定のアーティストとかクリエイターとかではなく、自分で何かをおこしたい人が増えることが大事なのかなと思います。

柏本:かつて「カルチャー的な不良」っていう呼び方をしていたんですけど、現状に対して満足していなくて、こういうことをしたら面白いじゃん、かっこいいじゃん、楽しいじゃんっていう思考性を持った人が集まって、渋谷というフィールドで新たなチャレンジをしていくようになればいいなと思います。たとえば、今回のリニューアルを契機にGucciが渋谷PARCOに入ったのですが、渋谷という街であったり、渋谷PARCOに出店する意義や役割みたいなことをものすごく考えてくださったんですね。そういう熱量の積み重ねが街の成長に必要なんだろうなって。

左から:柏本高志、手塚千尋
左から:柏本高志、手塚千尋

プロフィール

寄本健(よりもと けん)

東急株式会社 沿線生活創造事業部 エンターテインメント戦略グループ所属。1974年長野県諏訪市生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科、同大学院機械工学専攻出身。1999年東京急行電鉄株式会社(現、東急株式会社)に入社。ホテル事業、エリア戦略策定、学童保育事業、東横線副都心線相互直通プロジェクトに携わったのち、株式会社東急文化村に出向。複合文化施設Bunkamuraにて文化を事業する実務に携わった経験をベースに、'18年より渋谷再開発における主にソフト面、'19年よりエンターテインメント事業を担当、現職。

浜本理恵(はまもと りえ)

東急株式会社 ビル運営事業部 渋谷運営グループ 兼 渋谷開発事業部所属。1987年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学政治経済学部出身。2010年東京急行電鉄株式会社(現、東急株式会社)に入社。ICT事業、ケーブルテレビ事業、電力・ガスの小売事業の立ち上げに携わった後、'18年より渋谷再開発の情報発信、PR業務を担当。'13年には東横線渋谷駅跡地をイベント等で暫定活用する「ekiato」プロジェクトを担当。'20年より渋谷ヒカリエ等の文化用途およびマーケティングを担当、現職。

柏本高志(かしもと たかし)

株式会社パルコ執行役員渋谷パルコ店長。1963年、東京生まれ。早稲田大学教育学部出身。津田沼パルコ、名古屋パルコ、渋谷パルコの店長を務め、2015年執行役渋谷パルコ店店長に就任。2016年9月より渋谷プロジェクト(渋谷パルコ建替えプロジェクト)、渋谷店準備室の担当執行役を経て、2019年9月より執行役渋谷パルコ店店長を務める。2020年5月より同職。

手塚千尋(てづか ちひろ)

株式会社パルコ 渋谷店 営業課 課長。京都大学農学部出身。2006年株式会社パルコ入社。2014年コラボレーションカフェ『THE GUEST cafe&diner』事業を立ち上げ、「キキ&ララ カフェ」など連日大行列のカフェをプロデュースしコラボカフェブームの火付け役となる。2016年より渋谷パルコ準備室にて渋谷パルコリニューアルのリーシング、プロモーションを担当。新生渋谷パルコ内にファッション×アートスタジオ『2G』を立ち上げる。

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