東急×パルコ対談 再開発やコロナ後、次世代の渋谷を考える

東急×パルコ対談 再開発やコロナ後、次世代の渋谷を考える

2020/07/01
インタビュー・テキスト
村上広大
撮影:前田立 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

街の「余白」は、「誰が来るのか」「何をしてもらうのか」をイメージして作る

―渋谷PARCOの9Fに「GAKU」という学びのためのイベントスペースがあるじゃないですか。そういう自由に使える空間を用意しているのも、そこに人が集まってほしいという想いがあるからこそなのかなと思うのですが。

手塚:そうですね。今は新型コロナウイルスの影響もあって難しい時期でもあるんですけど、渋谷PARCOをリニューアルするときにはすごく議論をしました。実際にギャラリーやフリースペースなど、人が自由に使える空間を多く用意して、つねに中身が入れ替わることで人が刺激を受けられる場所にしています。

浜本:余白を残すのってすごく重要ですよね。どういった変化に対しても柔軟に対応できるというか。

寄本:都市開発の場合、新たにビルを建てる際には公共空間を一定規模確保しないといけないルールがあったりするのですが、「何のための空間か」という目的が抜け落ちてしまうと、誰にも使われなくなって、ただの空き地みたいになってしまうんですよね。「そこに誰が来るのか」「何をしてもらうのか」っていうことをイメージすることが重要で。

それでいうと渋谷は、民間企業だけでなく、国、都、区、地元といろんなレイヤーの人が集まって喧々諤々の議論がなされているんですね。そういう街だからこそきちんと余白が生まれるし、いろんな人が興味を持ってくれるのかなと。

―そういう会議に参加したことがないのであまりイメージが湧かないのですが、かなり盛り上がるんですか?

寄本:いろんな会議が年に何回かあるんですよ。街づくりについて考えようとか、インフラについて考えようとか、観光について考えようとか。というのも、インフラとか箱を整備しただけじゃ、企業や人は集まらないんですよね。渋谷でやりたいと思ってもらえるかがすごく重要で。それは、先ほど話題に出た「いろんな人がいる」とか「チャレンジしやすい風土がある」みたいなことがポイントだと思います。

左から:寄本健、浜本理恵
左から:寄本健、浜本理恵

コロナによって大きく変わる人々の生活。仕事とプライベートの境はなくなっていくだろう。そのとき商業施設は?

―東急やパルコのようにリアルな場を作っている方々にとっては、新型コロナウイルスの問題は避けては通れないテーマだと思うのですが、どのような舵取りをしていくのでしょうか?

柏本:リアルの価値をもう一度しっかりと見つめ直さないといけないと思うんですね。コロナの事態がいつ収束するのかわからないですし、昔に戻るという発想はもうできない。商業施設としては、新しい変化を受け止めながら、新しい価値を作っていかないといけない気がします。それこそ、リアルにこだわらずにどうやってお客さんとコミュニケーションを取っていくのかを考えていくタイミングなのかなと。

手塚:渋谷PARCOは6月1日に営業を再開したんですけど、その前夜祭として5月31日に完全無観客のライブイベントを9階にあるライブストリーミング配信スタジオ「SUPER DOMMUNE」で配信をしたんです。

バーチャル渋谷PARCOにて開催された『SHIBUYAPARCO ReOPEN前夜祭』完全無観客ライブ

浜本:私も試聴していました。

手塚:ありがとうございます。結果として20万人以上が視聴してくれたのですが、ある意味で僕たちの意識が変わった瞬間でもあったんです。というのも、これまでは情報を発信するにしてもどうやってリアルに人を呼べるかという観点でしか物事を考えていませんでした。でも、もっとオンラインの場を活用してパルコをアピールしてもいいのかなと。

―そういう新しい判断基準が生まれたのは大きな収穫かもしれないですね。東急はいかがでしょうか?

寄本:今回のコロナに関しては、人によって影響の度合いが違うので軽い気持ちで言うことはできないのですが、人間がすごいのって、いくら自然災害やウイルスなどの問題で困難な状況に立たされても、その度に乗り越えて強くなっていけることだと思うんですね。たとえば今回だと、接触ができなくなるからこそ、パルコさんのようにオンラインの場を盛り上げるきっかけができた。そういうことを後々になって振り返ることができたらいいですよね。

ただ、今はリアルな場で何かをやるとしても安全性の確保が最優先になります。それができるようになったら、次に快適性の向上があって、それから豊かさみたいなことを考えていくフェーズになるのかなと。そこで必要になるのがカルチャーやエンタメのはず。だからこそ、今は医療従事者をはじめ最前線で対応に追われている方々への感謝の気持ちを持ちながら、もうひとつ上のステージにいけるように街づくりに取り組んでいきたいなと考えています。

―浜本さんは、現時点で何か具体的にこういうことをしていこうと考えていることなどはあったりするのでしょうか?

浜本:渋谷の再開発は2027年度までと公表しているのですが、実は今回のプロジェクトをきっかけに再開発に興味を持ってくださる方もいて。ただ、新型コロナウイルスによってウィズコロナ、アフターコロナみたいなものを無視できなくなっていて、これまでの成功プロセスをそのまま踏むことはできなくなりました。それこそ、オフィスビル、商業ビルは今のままの形でよいのか、みたいなところから考えていかないといけないと思っています。

―たしかに、人々の快適な空間の条件も変わってきそうですよね。

浜本:これまではどちらかというと、積極的に密な状態を作って、にぎわいを生み出すことを目的としてきたと思うんです。でも、これからは密を作らないことが前提になるかもしれないですよね。これは新しいことに取り組んでいくチャンスでもあるので、渋谷区で積極的に実験している5GやVRみたいなものも注視していきたいと考えています。

寄本:この3か月間の自分の生活を振り返ると、自分の時間を仕事とプライベートで分けることが難しくなっていて。時間や空間の境目がなくなっているんでしょうね。これまでは、ここは働く場所、ここは住む場所みたいにセグメントされていたけど、これからの10年はもっと有機的につながっていくんじゃないでしょうか。住宅地だった場所に働きに行く、みたいなことが起こる気がします。

手塚:就業時間が変わるのも大きそうですよね。これまではアフター5をどう楽しむのかみたいな価値観が主流だったと思うんですけど、時差出勤や在宅勤務が増えることによって、午前はプライベートの時間に費やして、午後から仕事をするみたいなこともできるようになっていますから。

寄本:そうなると、商業施設の営業時間はどうしたらいいのかわからなくなってきますね(笑)。

プロフィール

寄本健(よりもと けん)

東急株式会社 沿線生活創造事業部 エンターテインメント戦略グループ所属。1974年長野県諏訪市生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科、同大学院機械工学専攻出身。1999年東京急行電鉄株式会社(現、東急株式会社)に入社。ホテル事業、エリア戦略策定、学童保育事業、東横線副都心線相互直通プロジェクトに携わったのち、株式会社東急文化村に出向。複合文化施設Bunkamuraにて文化を事業する実務に携わった経験をベースに、'18年より渋谷再開発における主にソフト面、'19年よりエンターテインメント事業を担当、現職。

浜本理恵(はまもと りえ)

東急株式会社 ビル運営事業部 渋谷運営グループ 兼 渋谷開発事業部所属。1987年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学政治経済学部出身。2010年東京急行電鉄株式会社(現、東急株式会社)に入社。ICT事業、ケーブルテレビ事業、電力・ガスの小売事業の立ち上げに携わった後、'18年より渋谷再開発の情報発信、PR業務を担当。'13年には東横線渋谷駅跡地をイベント等で暫定活用する「ekiato」プロジェクトを担当。'20年より渋谷ヒカリエ等の文化用途およびマーケティングを担当、現職。

柏本高志(かしもと たかし)

株式会社パルコ執行役員渋谷パルコ店長。1963年、東京生まれ。早稲田大学教育学部出身。津田沼パルコ、名古屋パルコ、渋谷パルコの店長を務め、2015年執行役渋谷パルコ店店長に就任。2016年9月より渋谷プロジェクト(渋谷パルコ建替えプロジェクト)、渋谷店準備室の担当執行役を経て、2019年9月より執行役渋谷パルコ店店長を務める。2020年5月より同職。

手塚千尋(てづか ちひろ)

株式会社パルコ 渋谷店 営業課 課長。京都大学農学部出身。2006年株式会社パルコ入社。2014年コラボレーションカフェ『THE GUEST cafe&diner』事業を立ち上げ、「キキ&ララ カフェ」など連日大行列のカフェをプロデュースしコラボカフェブームの火付け役となる。2016年より渋谷パルコ準備室にて渋谷パルコリニューアルのリーシング、プロモーションを担当。新生渋谷パルコ内にファッション×アートスタジオ『2G』を立ち上げる。

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