1971年に発行された真鍋博による伝説の書籍『超発明』。真鍋の発明の中にはすでに社会実装されているものや、現代のSNSを示唆するようなものが描かれ、その発想力には50年経ったいまでも驚かされる。その文庫版の解説を担当したのは、「通りすがりの天才」こと川田十夢だ。
日本でAR(拡張現実)が注目される以前から活動している川田十夢は、最先端のテクノロジーを使い、これまでにない発想で数々のものを発明しきた。その多くは直感的で、誰にでもわかる、ちょっとキテレツな発明ばかり。
50年前の『超発明』と、現代の発明家である川田十夢の新刊『拡張現実的』、さらに2040年の未来が描かれている文部科学省の『科学技術白書』。これらの過去・現在・未来からテクノロジーの現在地を探り、テクノロジーがもつ可能性、人間の価値について川田十夢に話を訊いた。
「僕は現実をリアリティーにするのではなく、リアルを拡張したかった」
―最近「AR」という言葉を目にする機会はますます増えたように感じます。今年3月に発売された川田さんの新刊も『拡張現実的』というタイトルですが、そもそもARとはどんなものなのでしょうか。
川田:ARの定義はどんどん変化していますが、僕がやり始めた10年前のAR(Augmented Reality)は、VR(Virtual Reality)と対をなす技術としてARと呼ばれ始めました。当時は、仮想現実がVRで、ARは拡張現実。
ARもVRも、Rの正しい訳はリアリティーだったので、本当は「拡張現実性」というのが一番正しい。でも僕が拡張したいのはリアリティではなく現実だったので、11年前から「拡張現実だ!」と言い張っていたら、オフィシャルとなる原典の翻訳自体が「拡張現実」と表記されるようになった。
川田十夢(かわだ とむ)
1976年、熊本県生まれ。1999年にミシンメーカーへ就職、面接時に書いた「未来の履歴書」に従い、全世界で機能する部品発注システムやミシンとネットをつなぐ特許技術発案などをひと通り実現。2009年に独立、やまだかつてない企画開発ユニット「AR三兄弟」の長男として活動を開始。ジャンルとメディアを横断し、AR(拡張現実)技術を駆使したプロダクツやエンターテイメントの企画・開発・設計を担う。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査員主査。毎週金曜日20時から放送のJ-WAVE『INNOVATION WORLD』のナビゲーターも務める。
―「拡張現実性」を「拡張現実」にしたのは川田さんだったのですね。
川田:たぶん、そうだと思います。僕が、拡張現実、拡張現実言いまくっているうちに「性」がとれました。物事は掘り下げていくと「性」が取れるんですよ。「おじいちゃん」は「おばあちゃん」みたいになるし、「おばあちゃん」は「おじいちゃん」みたいになる。尊敬しているみうらじゅんさんも、最近めっきりおばさんに寄ってきてますよね(笑)。
内容を突き詰めると「性」が抜け落ちてゆく。僕はARを追求したので「性」が取れたわけです。
―なるほど(笑)。
川田:「性」はもうなくしたほうがいいですよ。男だから、女だからではなく。現代的アプローチです。
1971年に発行された真鍋博の著書『超発明』と、川田の著書『拡張現実的』
―10年くらい前というと『TV Bros.』の連載『魚に乳首はあるのだろうか?』(やがて『拡張現実的』にまとまる)が始まったころですね。
川田:そうです。僕も含めて、多くの技術者やメディアアーティストは「こういう技術があるから、こうなるはずだ」という見解をプロダクトや作品として出している。でも、実装アプローチだけだと着地点がある程度予測できるので、飛距離という意味でたかが知れてる。
そうではなくて、できるできないは置いておいて「こう在りたい」「こう生活したい」「こういうふうに他者と会話を重ねたい」というイメージから書き起こしておくべきだと思って連載をしていました。「現実的ではないけど、拡張現実的ではある」って、帯にも書いてあります。
―イメージありきという意味では、真鍋博さんの『超発明』に近いところがありますよね。川田さんは文庫版『超発明』の解説を担当されています。
川田:真鍋さんといえば、星新一さんのショートショート作品へ寄せた挿画が有名です。本を開いたとき、絵を見ただけで結末がわかってしまうと文章を読まなくなってしまうので、短編の挿絵を描くって実はとても難しいの。その点、真鍋さんは行間が進むにつれて、絵の見え方が変わるような工夫をほどこしてて、素晴らしいです。
真鍋さんの挿絵の仕事は、主役である作家が書いた物語に光を当てることが目的、想像力という意味では力をある程度セーブして描いていたと思うんです。でも『超発明』ではご自身のアイデアを惜しみなくすべて出して描いている。絵も本当に上手で、いまだに新しく感じられます。
―イラストとテキストで構成される『超発明』と、2~4ページくらいの短いテキストで構成される『拡張現実的』は、不思議と読んでいてリズムが似ています。執筆の際、『超発明』は意識されていたんですか?
川田:書いているときは忘れていました。だけど、やっぱり免れないですよね、過去に撃ち抜かれたものからの影響は。真鍋さんの絵は小さいころから知っていました。
『超発明』や真鍋さんの絵は、小さいころの僕にとってライバルだったので、当時はあまり細かく見ようとは思わなかったのですが、大人になってから熟読しました。教科書というよりは、発想の計算ドリルかな。「自分の発想と被ってないか?」という答え合わせを1回してみたことがあります。
―ライバルなのですね。
川田:そりゃライバルですよ! 僕にとっては夏目漱石もライバルですからね。
書籍情報
- 『拡張現実的』
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2020年4月2日(木)発売
著者:川田十夢
価格:1,650円(税込)
発行:講談社
- 『超発明 創造力への挑戦』
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2014年3月10日(月)発売
著者:真鍋博
価格:814円(税込)
発行:ちくま書房
イベント情報
- 『おさなごころを、きみに』
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2020年7月18日(土)~9月27日(日)
休館日:月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
会場:東京都現代美術館 企画展示室 3F
プロフィール
- 川田十夢(かわだ とむ)
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1976年、熊本県生まれ。1999年にミシンメーカーへ就職、面接時に書いた「未来の履歴書」に従い、全世界で機能する部品発注システムやミシンとネットをつなぐ特許技術発案などを一通り実現。2009年に独立、やまだかつてない開発ユニット「AR三兄弟」の長男として活動を開始。ジャンルとメディアを横断し、AR(拡張現実)技術を駆使したプロダクツやエンターテインメントの企画・開発・設計を担う。主なテレビ出演に『笑っていいとも!』『情熱大陸』『課外授業 ようこそ先輩』『タモリ倶楽部』など。ユニコーン、真心ブラザーズ、BUMP OF CHICKENといったミュージシャンとのコラボレーション、『自販機AR』(コカ・コーラ)、『星にタッチパネル劇場』(六本木ヒルズ)、『ワープする路面電車』(広島)、新海誠監督のアニメーション作品の拡張現実化など、劇場からミュージアム、音楽からアニメーションに至るまで多岐にわたる拡張を手掛ける。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査員主査。毎週金曜日20時から放送のJ-WAVE『INNOVATION WORLD』のナビゲーターも務める。