川田十夢が、技術主導ではなく「こう在りたい」から考える未来

川田十夢が、技術主導ではなく「こう在りたい」から考える未来

2020/08/25
インタビュー・テキスト
野口理恵
撮影:関信行 イラスト:fancomi 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

台所は拡張の余地がある。発明品①「まな板コンピューティング」

―現在、川田さんが参加されている東京都現代美術館で開催中の『おさなごころを、きみに』展は、子ども向けの展示ですよね。

川田:僕が映像として出品しているのは「苦手科目を得意科目にする」コンセプトで過去作品をまとめたものです。プログラミングを学べば、苦手なものが得意になる。譜面が読めなかったら譜面をスキャンすれば音がそこでふわっと現れたり、体育が苦手だったら自分の体をフル3DCGでスキャンして、とび箱の選手のデータを入れて、とび箱を飛んでることにしてしまう。そういうプログラミングを既存の教科に持ち込んで未来を切り拓く方法を展示しました。

展示風景
展示風景

―苦手科目が得意になるなんて、子どもは大喜びですよね。

川田:あとは『スポンジと運動』という作品を展示してるのですが、ウニウニとへこむスポンジが置いてあって、画面を通してスポンジを見るとAR三兄弟がトランポリンしているんです。ちゃんと着地してるときにスポンジがモコっとなる。肉眼で見ると現実には何が起こってるのかわからない。そういう虚と実を結ぶようなものを展示しています。

AR三兄弟『スポンジと運動』

―見た目はただのスポンジですが、すごいことが起きているんですね。

川田:そう、ぱっと見、ただのスポンジだから、おさなごころを忘れてしまった大人が見ると、ただ備品が置いてあると思って通り過ぎちゃう(笑)。ちょっとバカバカしいけれど、未来の技術はこういうふうに進んでいくものです。虚と実を結ぶことが、次の時代の技術の根幹を成していきますから。

―身近な台所用品だからこそ驚きにつながりますね。

川田:先日発表されていた文部科学省の『科学技術白書』(参考:『令和2年版 科学技術白書』)を見ても、台所周りのコンピューティングは誰も考えていないですよね。どんなに技術が進歩しても、台所周りは揺るぎないトーン&マナーがある。

台所って本当は「手が濡れてるから外部メディアを触れない」という前提で、UIから再設計しないといけない。「まな板コンピューティング」を考えていて、たとえば、まな板の上に魚を乗せます。すると何の魚なのかピピピッと判断して、どうやって切るのかまな板に出てくる。で、その通りに切り落としていくと魚がおろせるわけです。

―それはいますぐ欲しい……。

川田:料理中はスマホなんて持っていられないですよね。それならまな板という画面みたいな場所がせっかくあるのだから、まな板でやるのが一番早い。

―確かにまな板ってモニターっぽいです。売れそうです(笑)。

川田:売れそうだよね。スポンジの作品を作りながら台所周りは拡張の余地があると思いました。

まな板って、センサーを内蔵すれば重さを測れるでしょう。大さじも計らなくていい。塩をばっとかけて差分を判定すれば適量かどうかすぐわかる。すごく簡単。あとは濡れた手でも操作できるようにして、包丁の進みと同じスピードでお手本動画が進めばいいわけです。

「まな板コンピューティング」のイメージ図
「まな板コンピューティング」のイメージ図

―便利ですね。いまの技術を応用すればできそうですか。

川田:そうですね。『科学技術白書』の盲点は、現状の技術を分解しきれていないことです。この機械の中に何があるか。タッチパネルのタッチの部分、電気の電極部分。それぞれがどう反応するのか。なぜ濡れた手だとスマホが反応しないのか。

それぞれの機能を分解できていれば、水回りで動くタッチパネルを作るにはどうすべきなのかという発想になる。こういうところから未来が開けてくる。

―『科学技術白書』はカタい感じがしますね。

川田:そう。どっちつかず。全然おもしろくないです。たとえば医療をAIで進めるためには「こういう未来になる」と簡単に書くけれど、それを実現するのは医療法や薬事法などの「自分たち(国)が作った法律」を緩和しなくてはいけないわけです。

それをプログラミングのように手続きをきちんと示さないと無価値なものになってしまう。現実には法律という重力もあるわけだから、まずはそれを国としてどう解放していくかを示さないと。反面、技術のほうは僕らに任せてくれればいいと思う。偏った人選による未来予想ではなく、専門家同士の実装可能な会話の糸口が必要なんです。

―夢を描いても、現実的には法律が壁になるわけですね。

川田:そう。Apple Watchも、本来的には心拍数から逆算して簡易的な医療行為ができる。アメリカでは法律的に解放されているからApple Watchで健康管理や予防医学が細かくできます。

でも日本はいろいろな法律があって、医療行為がまずできない。そういうがんじがらめの現実があるのに、そういうものを取っ払った未来をただ示してるのはナンセンスで現実味がない。

書籍情報

『拡張現実的』
『拡張現実的』

2020年4月2日(木)発売
著者:川田十夢
価格:1,650円(税込)
発行:講談社

『超発明 創造力への挑戦』
『超発明 創造力への挑戦』

2014年3月10日(月)発売
著者:真鍋博
価格:814円(税込)
発行:ちくま書房

イベント情報

『おさなごころを、きみに』

2020年7月18日(土)~9月27日(日)
休館日:月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
会場:東京都現代美術館 企画展示室 3F

プロフィール

川田十夢
川田十夢(かわだ とむ)

1976年、熊本県生まれ。1999年にミシンメーカーへ就職、面接時に書いた「未来の履歴書」に従い、全世界で機能する部品発注システムやミシンとネットをつなぐ特許技術発案などを一通り実現。2009年に独立、やまだかつてない開発ユニット「AR三兄弟」の長男として活動を開始。ジャンルとメディアを横断し、AR(拡張現実)技術を駆使したプロダクツやエンターテインメントの企画・開発・設計を担う。主なテレビ出演に『笑っていいとも!』『情熱大陸』『課外授業 ようこそ先輩』『タモリ倶楽部』など。ユニコーン、真心ブラザーズ、BUMP OF CHICKENといったミュージシャンとのコラボレーション、『自販機AR』(コカ・コーラ)、『星にタッチパネル劇場』(六本木ヒルズ)、『ワープする路面電車』(広島)、新海誠監督のアニメーション作品の拡張現実化など、劇場からミュージアム、音楽からアニメーションに至るまで多岐にわたる拡張を手掛ける。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査員主査。毎週金曜日20時から放送のJ-WAVE『INNOVATION WORLD』のナビゲーターも務める。

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