真鍋博と川田の、着想の似た天才的な発明品
―『超発明』で印象に残っている発明はありますか。
川田:まずは「周波針」です。僕は昔ミシン会社に勤めていたのですが、会社を退職する直前に研究していたのが、「周波数を布に縫う」というものでした。ギターをミシンにさして弾くとその「音」が縫われるわけです。
で、その縫った周波数をカメラにかざすと、音が聴こえるというものを発明をしていました。真鍋さんの「周波針」に近いですね。
―「電波を利用した縫合機械」ですね。
川田:そうそう。僕の発想の起点とは違って、真鍋さんはグラフィカルに想像していますよね。
僕の発明は20年くらい前に考えたものですが、いま考えるとやっぱりいいなと思います。ハンカチをプレゼントするときに、贈り主の声を刺繍しておく。どんな気持ちでプレゼントしたのか、あとからレコードのように再生できる。
『周波を記録(刺繍)再生する』(デモは2016年のもの)
―素敵ですね。
川田:こうやって答え合わせするみたいなときもあるし、「この発想はさすがだな」と思うものもある。あと、僕が好きな発明は「昼行燈」。闇を明るく照らすのは懐中電灯ですが、その反対で、日中に闇を走らせるのが「昼行燈」という発明です。
川田:光を反転させることが思いつくのはイラストレーターだからこそ。光をグラフィカルに捉えているからできるのだと思います。
こういう逆算の発想は、僕の本で言うと「オレオレ詐欺の反対語は、キミキミ融資だと思う」かな。全く同じ着想ですね。反転、反対で考えることは、すごくクリエイティブなことですよね。物事の対極を考えると深みが増します。
「かっこいい技術だけでは、人間は前へ進まない」
―「最先端テクノロジー」というと、一般人からは距離が遠い、少しとっつきにくいイメージがあります。でも川田さんが書かれている内容には、距離の近さや納得感があるものが多いように感じます。その違いはどこからくるのでしょうか?
川田:テクノロジーは感情を置き去りにする。『東京モーターショー』など未来を見せるものはいろいろありますが、どれも人間の感情がどう動くかではなく、テクノロジーを使ってできることを見せようとする。いかに豪速球を投げるかという価値観。
そうではなく、僕は感情の伴う技術にしたい。感情が伴わないと技術は浸透しない。死生観が追いつかない。「お墓なんて現実にいらないよ」と言われても、拝みたくなるでしょ。
―たしかに。
川田:そういう少しずつしか変化しないモラルや人間の気持ちを補完するためにテクノロジーはあるはず。技術の先端をクールに見せようとすると、感情を突き放してしまう。
僕はどちらかというとウケたいからやっている。ウケたい人からすると、引かれたくないわけですよ。だから感情と併走して、未来がこうあったらいいなというイメージも一緒に忍ばせておく必要がある。
書籍情報
- 『拡張現実的』
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2020年4月2日(木)発売
著者:川田十夢
価格:1,650円(税込)
発行:講談社
- 『超発明 創造力への挑戦』
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2014年3月10日(月)発売
著者:真鍋博
価格:814円(税込)
発行:ちくま書房
イベント情報
- 『おさなごころを、きみに』
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2020年7月18日(土)~9月27日(日)
休館日:月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
会場:東京都現代美術館 企画展示室 3F
プロフィール
- 川田十夢(かわだ とむ)
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1976年、熊本県生まれ。1999年にミシンメーカーへ就職、面接時に書いた「未来の履歴書」に従い、全世界で機能する部品発注システムやミシンとネットをつなぐ特許技術発案などを一通り実現。2009年に独立、やまだかつてない開発ユニット「AR三兄弟」の長男として活動を開始。ジャンルとメディアを横断し、AR(拡張現実)技術を駆使したプロダクツやエンターテインメントの企画・開発・設計を担う。主なテレビ出演に『笑っていいとも!』『情熱大陸』『課外授業 ようこそ先輩』『タモリ倶楽部』など。ユニコーン、真心ブラザーズ、BUMP OF CHICKENといったミュージシャンとのコラボレーション、『自販機AR』(コカ・コーラ)、『星にタッチパネル劇場』(六本木ヒルズ)、『ワープする路面電車』(広島)、新海誠監督のアニメーション作品の拡張現実化など、劇場からミュージアム、音楽からアニメーションに至るまで多岐にわたる拡張を手掛ける。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査員主査。毎週金曜日20時から放送のJ-WAVE『INNOVATION WORLD』のナビゲーターも務める。