絵文字は感情を伝えテキストをデコる。絵文字開発者×ギャル電対談

絵文字は感情を伝えテキストをデコる。絵文字開発者×ギャル電対談

2020/08/07
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

人生はコミュニケーションの積み重ね。そのなかでの言葉の使い方、ニュアンスの採り入れ方によって友人関係ばかりか仕事や出世なんかにも影響が出てきてしまうのだから、本当に「コミュニケーションあなどるなかれ」だ。

そんな現代社会のなかで重要な役割を持ちつつあるのが絵文字だ。笑顔、動物、ジェスチャーだけでなく、肌の色、言語、宗教など、現在の多様性を示すものとして、絵文字はいまも人と人のあいだを飛び交っている。

そんな絵文字にも原点がある。栗田穣崇(くりたしげたか)は1990年代後半にNTTドコモに勤務し、現在の絵文字のルーツとなる絵文字を生み出した。それらは現在、MoMA(ニューヨーク近代美術館)に収蔵され、デザイン史のなかに記憶されるまでになった。

ここでは、その栗田氏本人と、電子工作ギャルユニット「ギャル電」として活躍し、若い頃に絵文字を活用した経験を持つきょうこを招き、絵文字開発秘話、思い出などを聞く。

絵文字、ギャル文字、アスキーアート……1990年代後半~2000年代前半の若者のコミュニケーションの変化

―きょうこさんの絵文字の思い出は?

きょうこ:「ギャル電」は私ともう一人、大学院生のまおとでやってるんですが、私はだいぶ年上で。はっきりと年齢は明かさないですけど(笑)。

年代的には絵文字が使われ始めた頃にJKではあったんですけど、私はどっちかといえばクラスの端っこでSF小説とか読んでるようなめんどうくさい人間だったので、絵文字を抵抗なく友だちに送れる感じじゃなかったんです。メール1本送るにもめちゃくちゃ推敲して「ここに絵文字を入れると意味深になってしまうのでは……?」と、延々悩んでしまうタイプ。頑張って、ニコッってマークを入れて「よし! これで若者っぽい!」という気持ちにようやくなって。

ギャル電きょうこ<br>現役女子大学院生ギャルのまお電子工作ユニット「ギャル電」として活躍。「デコトラキャップ」「会いたくて震えちゃうデバイス」などギャルとパリピにモテるテクノロジーを生み出し続けている。夢はドンキでアルドゥイーノが買える未来がくること。
ギャル電きょうこ
現役女子大学院生ギャルのまお電子工作ユニット「ギャル電」として活躍。「デコトラキャップ」「会いたくて震えちゃうデバイス」などギャルとパリピにモテるテクノロジーを生み出し続けている。夢はドンキでアルドゥイーノが買える未来がくること。

栗田:(笑)。

きょうこ:ひと苦労ですよ。そんな感じで、絵文字よりもアスキーアートや顔文字に親しみのあるオタクでした。

栗田:クラスの隅っこの人はだいたい顔文字派ですよね。「我々はこっち側なんで……」っていう。

きょうこ:ギャル感のない話ですみません(苦笑)。いまの時代に、かつてのギャル文化をディグってギャルやってる人のなかには間違ったギャル文化を楽しんでる人も多いので、だから自分みたいなのもアリかなと。絵文字と顔文字もわりと混在して使ってた気がしますし。

栗田:絵文字がはじめて使われたiモードは1999年2月がサービス開始で、日本で顔文字やアスキーアートが流行ったのは2002年あたりからかな。『電車男』が「2ちゃんねる」で始まったのが2004年。ギャル文字がこれらにやや遅れる感じで、ケータイ小説が流行り始めたのが2004年前後かな?

栗田穣崇(くりたしげたか)<br>1972年生まれ、岐阜県出身。1995年にNTTドコモ(旧:エヌ・ティ・ティ移動通信網)に入社。1997年4月に、社内公募でゲートウェイビジネス部(その後のiモード事業部)へ配属され、iモードの立ち上げに参画。「絵文字」の生みの親として知られている。2017年からは動画サービス『niconico』の運営代表を務める。2019年2月には株式会社ドワンゴの専務取締役に就任した。
栗田穣崇(くりたしげたか)
1972年生まれ、岐阜県出身。1995年にNTTドコモ(旧:エヌ・ティ・ティ移動通信網)に入社。1997年4月に、社内公募でゲートウェイビジネス部(その後のiモード事業部)へ配属され、iモードの立ち上げに参画。「絵文字」の生みの親として知られている。2017年からは動画サービス『niconico』の運営代表を務める。2019年2月には株式会社ドワンゴの専務取締役に就任した。

きょうこ:懐かしいですねー!

―栗田さんはNTTドコモ在籍時にiモード開発チームに加わり、現在世界中で使われている絵文字の基礎となる約200種類の絵文字を企画・デザインしています。そのアイデアの前身に、やはり1990年代の若者の必須アイテムだったポケベルのハートマークから着想されたと聞きました。当時付き合っていた彼女とポケベルのやりとりをしていて、例えば「ナニシテルノ?」だけだと誤解が生まれがちなので「イラスト1」を付けるようになったとか。

栗田が手がけたNTTドコモの初期の絵文字一覧(©NTT DOCOMO, INC.)
栗田が手がけたNTTドコモの初期の絵文字一覧(©NTT DOCOMO, INC.)

栗田:電子文字だけのやりとりって、どうしても殺伐としがちなんですよね。ポジティブに読まれることは少なくて、怒りとか攻撃みたいにネガティブに裏読されるのがほとんど。ポケベルはとくに文章量が少ないので誤解を生みやすかった。それを改善するために絵を使おう、というのはポケベルから来たアイデアです。

とにかくハートマークは最強の絵文字で、どんな言葉でもネガティブにならないんですよ。極端だけど「死ね」でも「殺す」でも「イラスト1」がつけば冗談としてセーフになる。

きょうこ:たしかにすごい発明(笑)。

栗田:笑顔マーク「イラスト2」も、使い方に気をつけないと「これは嘲笑されてる?」とネガティブにとられかねませんからね。

―メールを送るときに空気を和ませるために語尾を「~」と伸ばしてみたり「!」をつけることありますよね。そういったコミュニケーションの機微をチューニングしたいという要望から、絵文字も生まれてきたんですね。

プロフィール

栗田穣崇(くりた しげたか)

1972年生まれ、岐阜県出身。1995年にNTTドコモ(旧:エヌ・ティ・ティ移動通信網)に入社。1997年4月に、社内公募でゲートウェイビジネス部(その後のiモード事業部)へ配属され、iモードの立ち上げに参画。「絵文字」の生みの親として知られている。2001年からは、モバイルコンテンツのコンサルタントとして、ドコモ・ドットコムにて数多くのサービス立ち上げに携わり、楽天株式会社やぴあ株式会社を経て、株式会社バンダイナムコゲームスに入社。株式会社ドワンゴで執行役員や株式会社カスタムキャスト取締役に就任したのち、2017年からは動画サービス『niconico』の運営代表を務める。2019年2月には株式会社ドワンゴの専務取締役に就任した。

ギャル電(ぎゃるでん)

現役女子大学院生ギャルのまおと元ポールダンサーのきょうこによる電子工作ユニット。「デコトラキャップ」「会いたくて震えちゃうデバイス」などギャルとパリピにモテるテクノロジーを生み出し続けている。夢はドンキでアルドゥイーノが買える未来がくること。

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