絵文字は感情を伝えテキストをデコる。絵文字開発者×ギャル電対談

絵文字は感情を伝えテキストをデコる。絵文字開発者×ギャル電対談

2020/08/07
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

ガラケー時代の初期ドコモ絵文字。ギャル文化に大きな影響を与えた「アゲイラスト3」と「サゲイラスト4

栗田:iモードの開発にあたって、当初絵文字を作る予定はなかったんですよ。iモードは携帯電話でメールもネットもできるというわりと画期的なサービスで、私はメール部分の企画担当でした。ポケベルのハートマークの経験から、その拡張版として導入を提案したんです。技術的に作れるのが200個くらいで、それをさらにビジネス用だとかiモードの仕様などに沿ってカテゴリー分けして絞っていきました。

―「イラスト5」や「イラスト6」のようなビジネスに使いやすいものも含まれますが、結果的に10代~20代の若い人たちが絵文字を活用するようになりますが、当時の栗田さんはそれを予測していましたか?

栗田:していました。当時は私も25歳くらいでしたし、開発していた1998年当時はアムロちゃん(安室奈美恵)が人気で、時代的にはアムラーとギャルのはざまくらい。高校生が世の中のムーブメントにおいて強い力を持っていましたから、その層に使ってもらうことが流行のきっかけになるだろうというのはかなり意識的でした。リサーチとして、高校生に来てもらって絵文字を見てもらったりもしてましたよ。

栗田穣崇

きょうこ:iモード以降の携帯電話の機種選びの基準って、中高生ぐらいだと「この絵文字が使いたいから」っていうのがありましたよね。

―カメラ機能がついたJ-PHONEに機種変更する人もいたりして、やっぱりコミュニケーションが重要だったな、という感じがします。キャリアが異なると絵文字が表示されなかったりして。

きょうこ:いまはもうない習慣ですけど、飲み会なんかで初めましての人と知り合って仲良くなると「どこの機種使ってるの?」って聞いたりしていましたよね。iPhoneが出始めたときも、この人はスマホだからHTMLでメールを送っても大丈夫、みたいな意識が当時はあった。

栗田:ドコモだと、デコメールとかありましたよね。

きょうこ:デコメは、いま見るとなんとも言えない感情に襲われますよね。おしゃれにデコったメールを作れるのがかっこいい、という時代。リア充の友だちがそういうメールを作ってるはるか遠くから「自分にはそんな時間はない!」と突っ張ってました。我ながらめんどくせえ(笑)。

今日はぜひ栗田さんにお聞きしたいことがあるんですが、最初の絵文字ってマンガ表現の記号や漫符を参考にしてるんですよね? とくに参考になった作品ってありますか?

栗田:それこそ『ジャンプ』『マガジン』『サンデー』、それから少女漫画各誌をばーっと買い集めて、共通項を見出すような作業でした。だから、特定の作品を参考に、ということではなかったです。マンガ表現全体でお約束になっていて、日本のマンガに親しんでいる人なら理解できるものを選んだんです。例えば、電球がパッと点灯する=アイデアをひらめく、っていうのはほとんどの人がわかりますよね。

きょうこ:その「概念」のチョイスをどうやったのかすごい気になってたんですよ。絵文字って、どうしても情報量が少なくて、複雑にはできないじゃないですか。なかには「これどういうことだよ!?」ってものもあったりして、でも逆にそれで遊んだりもして。

ギャル電きょうこ

栗田:「12×12ドット」のなかで表現しなければならない制約が大きかったですけど、個人的にこだわったのは「絵」ではなく「文字」であることでした。その後、技術力が上がってきてKDDIやJ-PHONEでは最初から「絵」の概念での絵文字を増やしていきました。ドコモも数を増やすことはしたんですけど、絵柄から変えることはしませんでした。絵だとユーザーごとに好き嫌いが出て来ちゃうんですよ。

きょうこ:現場的にも無限に増やさなきゃいけなくなって地獄ですよね。

栗田:できる限り抽象性を維持し、装飾性を削ぎ落としてシンプルにしようと。わかってもらえるギリギリを、意図的に狙っていました。

きょうこ:その記号性にグッとくるんです。私がすごく好きなのが「イラスト7」と「イラスト8」。酒は酒でもちがうニュアンスの2種類が揃っていて、使い分けの美学を感じました!

栗田:あの2つは12ドットのなかでもかなりの力作なんですよ(笑)。そのあとに「イラスト9」も入れたのですが、この3つはぜひ実現したかったものです。

きょうこ:かわいさがありますよね。記号としての役割だけなら顔文字で十分だと思うんですよ。でもiモードの絵文字には、記号が持つ普遍性もありつつ、「イラスト1」のような文章にまろやかなニュアンスをつける意識が当初からあった。これはすごいことだと思います。

栗田:文字数制限がありますから効率化するのは絶対として、装飾として「デコれる」こと、さらにニュアンスをつける余地があることを大事にしていました。人によって「この絵文字は使う / 使わない」というのが絶対にあって、それこそがその人らしさだと思うんですよ。例えば女性が「イラスト1」を使うのって「好き」って感情だけじゃないでしょう。単純に「かわいい」から使ってることも往々にあるわけで……それを男性は誤読しちゃいがちなんですけど(苦笑)。

きょうこ:ニュアンスの話で言うと、ギャル文化的に最重要なのが「アゲイラスト3」と「サゲイラスト4」です。

栗田:わかります。いまの主流になっているiPhoneは、これがいまいちなんですよね。四角く囲まれていて使いづらい。あれは本当に文句を言いたい(笑)。

きょうこ:そうなんですよー。あれだと、アゲとサゲのニュアンスが全然出ないんです。iモード時にすでに完成されてましたからね。しかも「アゲイラスト3」が赤で、「サゲイラスト4」が青! これ以上のアゲサゲ感はないですよ! これはMoMA(ニューヨーク近代美術館)に収蔵されてしかるべきです。

プロフィール

栗田穣崇(くりた しげたか)

1972年生まれ、岐阜県出身。1995年にNTTドコモ(旧:エヌ・ティ・ティ移動通信網)に入社。1997年4月に、社内公募でゲートウェイビジネス部(その後のiモード事業部)へ配属され、iモードの立ち上げに参画。「絵文字」の生みの親として知られている。2001年からは、モバイルコンテンツのコンサルタントとして、ドコモ・ドットコムにて数多くのサービス立ち上げに携わり、楽天株式会社やぴあ株式会社を経て、株式会社バンダイナムコゲームスに入社。株式会社ドワンゴで執行役員や株式会社カスタムキャスト取締役に就任したのち、2017年からは動画サービス『niconico』の運営代表を務める。2019年2月には株式会社ドワンゴの専務取締役に就任した。

ギャル電(ぎゃるでん)

現役女子大学院生ギャルのまおと元ポールダンサーのきょうこによる電子工作ユニット。「デコトラキャップ」「会いたくて震えちゃうデバイス」などギャルとパリピにモテるテクノロジーを生み出し続けている。夢はドンキでアルドゥイーノが買える未来がくること。

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