いまの絵文字は、電話の「もしもし」や、手紙の時候の挨拶に「拝啓」とつけるのと同じだと思っています。(栗田)
―いまや絵文字はemojiとして世界的に認知されていますが、この変化を栗田さんはどう見ていますか?
栗田:文脈の違いを感じますよね。日本だと言葉にニュアンスをつけるために文末に絵文字を使うじゃないですか。でも、海外で絵文字が流行し始めたときはそうじゃなくて、絵文字だけをバーっと並べて使われていたんですよね。最近は海外の人もテキストと混ざて使うようになりましたけど、なんとなく日本語と英語の成り立ちの違いを感じさせます。
もともと日本語はひらがな、カタカナ、漢字と、いろんな文字が混在してるから混ぜることに違和感がない。海外は違和感があったから、絵文字だけで組み合わせていたのかもしれない。
きょうこ:そういう海外の人の使い方が、いまは日本に輸入されてる感じもありますよね。いまのギャルってTwitterで初期の海外みたいな使い方をしてます。単にかわいい、っていう理由だけで「」みたいな(笑)。「え、何を言ってるの?」とも思いつつ「でも気持ちは伝わったよ。エモい!」みたいな。
栗田:エモは重要な要素ですよね。
きょうこ:エモを伝えるために好きな絵文字を使ったよ、みたいな。あとまおちゃんから言われて驚いたのが「ポジティブじゃない絵文字は若い人は使わないよ」ってことと、使われると怖いと感じる絵文字があるってことで。
栗田:へえ!
きょうこ:「え、ヤングはそういう感じ?」ってショックを受けました。
栗田:よく使ってる絵文字って、入力画面のいちばん左側に表示されますよね。あれを世代ごと、属性ごとに見比べるとけっこう面白いんじゃないかな。
きょうこ:若ぶってるのがバレそう(笑)。私だとかわいいって理由だけで、イルカとアルパカと脳みそが入ってるはず。
―いろんな小さな変化を知るだけでも、絵文字だけじゃなく、絵文字に求めてるものの変化も感じますね。
栗田:私はいまの絵文字を、電話で最初に「もしもし」と言ったり、手紙で時候の挨拶に「拝啓」とつけるのと同じだと思ってるんです。それは感情や意図のニュアンスを伝えるものでもあるけれど、スマホにおいて絵文字をつけるのは当たり前というフォーマットになっている。だからこそ、たくさんのバリエーションが求められてると思っています。
きょうこ:メディアに依存して、私たちのニーズも変化していくんだと思うんですよね。つい最近、女性や男性に顔を変える機能でSnapchatがバズりましたけど、小さなきっかけで使ってみようかな、って人が増える。だから、例えばAIなんかで感情を読み取って自動的に絵文字を加えてくれるアプリなんかも、流行したら一気に社会に普及するでしょうね。
―コロナウイルスの流行で、Zoomにも一気に慣れちゃいましたし。
きょうこ:慣れつつある、って感じが正しい気がします。モニター越しの対面から情報を発信する、読み取る、ってプロセスに人類がまだ慣れてなくて、ついついオーバーにあいづちを打ったり、表情をわかりやすく作ろうとしたりする。だから会議が終わったあとは異常に首や顔が疲れませんか?
栗田:そういうときに顔文字スタンプが使えたらいいですよね。画面もミュートしてるけど、そのむこうの人の感情はいまこんなですよー、っていうのを自動的に伝えてくれるとかなりラク。AIで表情を自動補正して、ずっと口元をニコニコさせてくれるアプリとかもできそう。若干のディストピア感がありますが。
プロフィール
- 栗田穣崇(くりた しげたか)
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1972年生まれ、岐阜県出身。1995年にNTTドコモ(旧:エヌ・ティ・ティ移動通信網)に入社。1997年4月に、社内公募でゲートウェイビジネス部(その後のiモード事業部)へ配属され、iモードの立ち上げに参画。「絵文字」の生みの親として知られている。2001年からは、モバイルコンテンツのコンサルタントとして、ドコモ・ドットコムにて数多くのサービス立ち上げに携わり、楽天株式会社やぴあ株式会社を経て、株式会社バンダイナムコゲームスに入社。株式会社ドワンゴで執行役員や株式会社カスタムキャスト取締役に就任したのち、2017年からは動画サービス『niconico』の運営代表を務める。2019年2月には株式会社ドワンゴの専務取締役に就任した。
- ギャル電(ぎゃるでん)
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現役女子大学院生ギャルのまおと元ポールダンサーのきょうこによる電子工作ユニット。「デコトラキャップ」「会いたくて震えちゃうデバイス」などギャルとパリピにモテるテクノロジーを生み出し続けている。夢はドンキでアルドゥイーノが買える未来がくること。