絵文字は感情を伝えテキストをデコる。絵文字開発者×ギャル電対談

絵文字は感情を伝えテキストをデコる。絵文字開発者×ギャル電対談

2020/08/07
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

イラスト12ぴえん」の絵文字に見る、ありものを工夫して新しく作り変えちゃうギャルマインド

―絵文字に限らず、テクノロジーが時代に影響を与えるシーンが多くなっています。先日、ちょうど絵文字に関するドキュメンタリー番組を見たのですが、コンピュータ上で使われる文字を策定する「ユニコードコンソーシアム」という団体があって、絵文字の場合は年間60~70くらいが新採用されるそうです。その枠をめぐって、例えばカリフォルニアワインを製造してる人たちが白ワインの絵文字を採用してもらうロビー活動をしていたり、あるいはトランスジェンダーの団体が、三色縞模様のフラッグの採用を嘆願していたりします(後者は2020年にEmoji13.0の一部として採用された)。これも絵文字が持つようになった政治力やパワーを示すものだと思います。

栗田:じつは私のところにも陳情が来たりするんですよ。コンソーシアムには全然関わってないので何の力もないんですけどね(苦笑)。絵文字が増えることについては、もう増え続けるしかないと思っています。しかし、それらが使われるかといえば別の話で、増えたとしても結局使われない絵文字は相当数あると思います。

きょうこ:私はITが盛り上がってる最初の頃にプログラミングの仕事に関わったことがあって、最初にやったのが2000年分のカレンダーを表示するプログラムをDOSコードで作れ、というお題でした。そのときに思ったのは、プログラムのような先端技術に関わるものも、誰かが意識的に作ろう、増やそうとしなければ誕生しないということでした。そのうえで、時代の流れと合致したときに、突然流行し始める。

例えば、「イラスト12ぴえん」の絵文字も、最初は単に泣き顔のバリエーション、いまにも泣きそう、って記号として作られただけでしょう。それが何かをきっかけに「ぴえん」と名付けられたことで、認識と普及が強まった。冷静に考えたら「ぴえん」ってなんだよ! って思いますけど、そう名付けられると、たしかに「ぴえん」にしか見えなくなっちゃう。名付けの呪い、って言うのかな。ギャル文字の流行もそうだと思うんですよ。

ギャル電きょうこ

栗田:たしかに「ぴえん」にはギャルの血脈を感じますね。

きょうこ:どの時代にも、ありものを工夫して新しく作り変えちゃうギャルのマインドは生きてるんですよ(笑)。栗田さんがおっしゃっていた増やすことに意味がない、っていうのは私も同意で、200種類くらいのなかで、ある文脈に沿った組み合わせを活用すれば十分豊かなコミュニケーションは生まれる。

栗田:いまみなさんが使っている絵文字はもはや「絵」ですからね。だから無限に増えていく。でも本当はせいぜい数百個に絞って、どの端末、どの国でも使える、ってしたほうが長生きできると思ってます。

栗田穣崇

―最後に「絵文字の未来はどうなりますか?」を質問しようと思ってましたが、お二人の話を聞いていると、大喜利的なセンスのある人が絵文字を組み合わせて、野性的に意味や文脈を開発していくほうが楽しいように感じました。

きょうこ:部品はシンプルなほうがなんでもできますからね。かつて、イケてるギャルがロシア語とか外字コードをめちゃくちゃ見て、そこからギャル文字は生まれた。それってめちゃくちゃクリエイティブでしょう。

栗田:そう。最初にギャル文字を作った天才がいるんですよ。どこかに。

きょうこ:携帯電話ごとの特性にめちゃくちゃ詳しい先輩とかいましたもん。たいていはケータイショップの店員になってましたけど。「ここのショップはギャルばっかり採用してるなー」なんて店もありました。

栗田:逆に、最近のギャルは何に詳しいんでしょうね。

きょうこ:何だろう? イケてるYouTuberとかTik Tokerとか? もしくはアプリのエフェクトですかね。自撮りとエフェクトに命を賭けてる人は、ギャル文字開発期のギャルのマインドに近いところがある気がします。それも、10年後の未来からしたら「そんなアプリに詳しい人のいる時代があったんだ……」ってなるはずなんですよ。

きっと、いまの若い子のなかには、昔のギャルみたいにユニコードコンソーシアムの議事録をめっちゃ漁ってる子がいるんじゃないですかね。

プロフィール

栗田穣崇(くりた しげたか)

1972年生まれ、岐阜県出身。1995年にNTTドコモ(旧:エヌ・ティ・ティ移動通信網)に入社。1997年4月に、社内公募でゲートウェイビジネス部(その後のiモード事業部)へ配属され、iモードの立ち上げに参画。「絵文字」の生みの親として知られている。2001年からは、モバイルコンテンツのコンサルタントとして、ドコモ・ドットコムにて数多くのサービス立ち上げに携わり、楽天株式会社やぴあ株式会社を経て、株式会社バンダイナムコゲームスに入社。株式会社ドワンゴで執行役員や株式会社カスタムキャスト取締役に就任したのち、2017年からは動画サービス『niconico』の運営代表を務める。2019年2月には株式会社ドワンゴの専務取締役に就任した。

ギャル電(ぎゃるでん)

現役女子大学院生ギャルのまおと元ポールダンサーのきょうこによる電子工作ユニット。「デコトラキャップ」「会いたくて震えちゃうデバイス」などギャルとパリピにモテるテクノロジーを生み出し続けている。夢はドンキでアルドゥイーノが買える未来がくること。

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