街が変わると人も変わる。Chim↑Pomが見たコロナ禍の渋谷

街が変わると人も変わる。Chim↑Pomが見たコロナ禍の渋谷

インタビュー・テキスト・編集
黒田隆憲
写真提供:Chim↑Pom

ユーモアと毒気を孕んだ型破りな活動が、常に物議を醸してきたアーティスト集団Chim↑Pom。彼らと渋谷は、その活動初期から関わりが深い。渋谷センター街で捕獲したドブネズミを剥製にし、黄色くペインティングした『スーパーラット』から始まり、渋谷駅にパブリックアートとして設置されている岡本太郎の壁画『明日の神話』に、福島第一原発事故を思わせる絵を貼り付けた『LEVEL7 feat.『明日の神話』』など、その過激ともいえるパフォーマンスはアートシーンの枠組みを越え、多くの人々に多大なるインパクトを与えてきた。ともすれば、良識ある人々から眉をしかめられかねない彼らの活動だが、その根底にあるのは人間の本質を抉り出しながらも、そこに「希望」の光を当てようとするオプティミスティックなパワーではないかと筆者は考える。では、その舞台がなぜ「渋谷」だったのか。アフターコロナの渋谷に、彼らはどのような希望を見出しているのだろうか。メンバーの一人、林靖高に聞いた。

YOU MAKE SHIBUYA連載企画「渋谷のこれまでとこれから」

新型コロナウイルスの影響で激動する2020年の視点から、「渋谷のこれまでとこれから」を考え、ドキュメントする連載企画。YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディングとCINRA.NETが、様々な立場や視点をお持ちの方々に取材を行い、改めて渋谷の魅力や価値を語っていただくと共に、コロナ以降の渋谷について考え、その想いを発信していきます。

YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディング

アート作品の観客って日本人だけじゃないし、もっと言うと100年後の人類だったりもする。

―初めて渋谷に来た頃のことを覚えていますか?

:中二の時、初めて1人で渋谷に行きました。スニーカーを買いに行ったと思うんだけど、当時はチーマーが出てきた頃で、センター街の至る所に座り込んでいて。路地裏ですれ違いざまに怖そうなお兄さんにツバを吐きかけられたりして、東京の多摩地区出身の中学生には怖い街だったと思います(笑)。

林靖高(はやし やすたか)<br>2005年に東京で結成したアーティスト集団Chim↑Pom(チン↑ポム)のメンバー。東京をベースにメディアを自在に横断しながら表現活動を続け、海外でもさまざまなプロジェクトを展開、世界中の展覧会に参加する。美術誌の監修や展覧会キュレーションなども行なう。2015年、Prudential Eye AwardsでEmerging Artist of the Yearおよびデジタル・ビデオ部門の最優秀賞を受賞。
林靖高(はやし やすたか)
2005年に東京で結成したアーティスト集団Chim↑Pom(チン↑ポム)のメンバー。東京をベースにメディアを自在に横断しながら表現活動を続け、海外でもさまざまなプロジェクトを展開、世界中の展覧会に参加する。美術誌の監修や展覧会キュレーションなども行なう。2015年、Prudential Eye AwardsでEmerging Artist of the Yearおよびデジタル・ビデオ部門の最優秀賞を受賞。

―その後、渋谷との付き合いも長くなったと思いますが、改めて渋谷が好きな理由を教えていください。

:好きかどうかわからないですが、なんだかんだ今もちゃんと行ってる。ずっと用事はある街なんだと思います。変化が常にある街なので、行けばとりあえず記録しておこうとスマホを取り出して、ビルや工事の写真、109の看板など撮影しちゃいます。

―Chim↑Pomと渋谷の関わりでいえば、『スーパーラット』や『LEVEL7 feat.『明日の神話』』、パルコミュージアムでの個展など色々あって縁も深い印象です。なぜ渋谷を舞台にした作品が多いのでしょうか。

『スーパーラット』
『スーパーラット』

:『スーパーラット』ではセンター街のドブネズミ、『明日の神話』は井の頭線とJRを結ぶコンコース、旧渋谷PARCOはセゾン文化や消費社会、『BLACK OF DEATH』ではカラスなどを扱い、渋谷を舞台に多くの作品を制作してきました。渋谷のファミレスや喫茶店でアイデア会議をするなど、当時こそメンバー揃って渋谷にいる事が多かったと思いますが、特に渋谷をレペゼンするつもりはなかった。特定のマテリアルがあるわけじゃない僕らの制作において、場所も物質も事象もこの世の全てをチョイス出来るはずです。でも渋谷だった。

―それはどうしてなのでしょう?

:アート作品の観客って日本人だけじゃないし、もっと言うと100年後の人類だったりもする。そうすると僕らの武器って「今、現在を生きていること」だったりする。それらを表現するのに渋谷は最適だったんだと思います。渋谷は「今、現在」を象徴している場所だから。震災の時の計画停電での暗い渋谷、コロナでスクランブル交差点から人がいなくなるだけで、ニュースになるくらいだから。それに何より、渋谷には人間が多い。人が集まるからカラスが多いしネズミも多い(笑)。そういった理由です。

2012年、パルコミュージアムで開催された『PAVILION』の展示作品
2012年、パルコミュージアムで開催された『PAVILION』の展示作品

今後も僕は渋谷とつきあっていくんだろうなぁ、と思います。

―新型コロナウイルスの影響で、ご自身の生活やChim↑Pomとしての活動にはどのような変化はありましたか?

:去年の9月にイギリスのマンチェスターで、19世紀に大流行したコレラのパンデミックをテーマにしたプロジェクトをやりました。コロナが流行る少し前の事です。コレラで亡くなった人々が埋葬されたマンチェスターの地下、現在のヴィクトリア駅の廃墟に「ビール工場」を設置し、オリジナルビール「A Drop of Pandemic」を醸造し同時に制作したトイレの中にあるパブで、そのビールを振舞いトイレで用を足してもらう。その下水を混ぜたセメントでブリックを作りました。そのブリックで街の欠けた壁を修復したり新たな建物の材料にしたりして、都市にパンデミックさせるプロジェクトです。コレラや酵母といったバイオロジカルなプロセスを可視化し、それらと下水道など街のインフラにまつわる歴史的な関係、ビールと労働者の関係、パンデミックと都市の関係をキーワードに制作しました。

『A Drunk Pandemic』で制作された、下水を混ぜたブリック
『A Drunk Pandemic』で制作された、下水を混ぜたブリック

―なぜビールだったのですか?

:コレラ禍において、ビールは沸騰させて作るので生水より安全だったんです。パブ文化も相まってビールがよく飲まれた。同時に酔っ払いが増えたりもし、治安も乱れたそうです。ご存知の通りマンチェスターは産業革命の地ですが、当時の急激な都市化による劣悪な衛生環境は、コレラの蔓延を引き起こした大きな要因だった。だからコレラ患者は老人や虚弱者、労働者、酒飲みなどの貧困層に偏っていた。裕福な層は彼らを道徳的に劣っている、すなわち「コレラ=不道徳」な人たちがかかる病気だと決めつけた。新型コロナウイルスが流行りはじめて案の定、夜の街が槍玉に挙がりました。ライブハウスやクラブなんかも。不道徳とみなされた部分も多いと思うんですよね。なんか19世紀と全く同じ事が起きてるな、と。

オリジナルビール「A Drop of Pandemic」
オリジナルビール「A Drop of Pandemic」

―確かにそうですね。

:その後マンチェスターの街は下水道や公衆便所が急速に整備され、コレラによって街は変わりました。コロナでの変化も今後確実にあるはずです。街が変わると人も変わる、人が変わると文化も変わる、渋谷はその影響をモロに受ける場所だからこそ、今後も僕は渋谷とつきあっていくんだろうなぁ、と思います。

―街とご自身の関係性も、コロナによる変化はあったと思いますか?

:今話したように、コロナに限らず人間の変化で街は変わるし、街が変わればそこにいる人間も変わる。当然ですが、とても密接な関係です。Chim↑Pomのデビュー作である『スーパーラット』とは、毒餌にも負けない耐性を持ったドブネズミの通称です。毒すらも餌にして都市で生き抜く様と、渋谷や新宿にいる若者や自分たちを照らし合わせ、また共感して作った自画像的作品です。その後、震災を経て「日本人の肖像」としてシリーズ化しました。

毎年ネズミが多く出るスポットも変化します。ラーメン屋が潰れたらネズミの生活も変わる。ゴミの出る時間が変わればネズミの出る時間も変わる。街の変化に敏感なんです。近年の渋谷の都市開発なんかにも対応して変化してる。もちろんコロナの影響も当然ある。自粛中、人が消えた渋谷でネズミが増えたニュースがバズってましたが、新しい生活様式で変わるのは人間だけじゃなく、ドブネズミにとっても新しい生活様式が課せられ、ミクロには既に変わっている実感があります。

―そんな中、残り続けて欲しい渋谷の魅力や、これからの渋谷に期待したいことがあれば教えてください。

:フランス人の友達に、「フランスは危険だけど自由があって、日本は安全だけど自由がないよね」って言われたことがあります。でも僕が中二の時に初めて1人で訪れた渋谷も、今の渋谷も変わらず自由なはずだし、自由であり続けて欲しい。そこが渋谷の魅力だと思ってます。

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『YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング』
『YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング』

23万人の渋谷区民と日々訪れる300万人もの人たちが支えてきた渋谷の経済は“自粛”で大きなダメージを受けました。ウィズコロナ時代にも渋谷のカルチャーをつなぎとめるため、エンタメ・ファッション・飲食・理美容業界を支援するプロジェクトです。

プロフィール

林靖高
林靖高(はやし やすたか)

2005年に東京で結成したアーティスト集団Chim↑Pom(チン↑ポム)のメンバー。 東京をベースにメディアを自在に横断しながら表現活動を続け、海外でもさまざまなプロジェクトを展開、世界中の展覧会に参加する。美術誌の監修や展覧会キュレーションなども行なう。2015年、Prudential Eye AwardsでEmerging Artist of the Yearおよびデジタル・ビデオ部門の最優秀賞を受賞。

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