渋谷の「レコ屋文化」を守り続けた、マンハッタンレコードの思い

渋谷の「レコ屋文化」を守り続けた、マンハッタンレコードの思い

インタビュー・テキスト・写真・編集
黒田隆憲

かつて渋谷の宇田川町エリアには、様々なジャンルの輸入盤レコードショップが混在し、「渋谷系」「フリーソウル」など「渋谷発」ともいえる独自のカルチャーを生み出し全世界に発信していた。2010年前後を境に、その多くのショップは残念ながら閉店してしまったが、今なお「かの地」で渋谷カルチャーを守り続けているのがここ、「マンハッタンレコード」だ。ヒップホップやR&B、そしてそのルーツとなるブラックミュージックのアナログレコードを取り扱う「マンハッタンレコード」には、日本国内のみならず海外からも多くのコレクターが足繁く通い詰めている。コロナ禍になり、今また多くのショップが存続の危機に瀕する中、渋谷のレコード文化を守り続けてきた「マンハッタンレコード」は、どのような取り組みを行なっているのだろうか。店長の清川正敏さんに話を聞いた。

YOU MAKE SHIBUYA連載企画「渋谷のこれまでとこれから」

新型コロナウイルスの影響で激動する2020年の視点から、「渋谷のこれまでとこれから」を考え、ドキュメントする連載企画。YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディングとCINRA.NETが、様々な立場や視点をお持ちの方々に取材を行い、改めて渋谷の魅力や価値を語っていただくと共に、コロナ以降の渋谷について考え、その想いを発信していきます。

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特に印象に残っているのは、外国の方が既に移転や閉店されている宇田川町のショップを聖地巡礼していたことです。

―『マンハッタンレコード』はどのようなショップなのか、お店の特徴や置いているレコードの傾向など教えてください。

清川:1980年創業の渋谷宇田川町のレコードショップです。元々はソウル / レアグルーヴを主に取り扱っていたお店で、1990年代のDJ文化と共に現在のヒップホップ / R&Bをメインにしたレコード店になりました。新品、中古問わず取り扱っており、現行のヒップホップからその源流ともいえるソウル / ファンクまで、地続きの音楽として紹介出来るお店だと思っています。

清川正敏(きよかわ まさとし)<br>1980年に創業し、1993年に現在の宇田川町に移転。現在はヒップホップ、R&Bやそのルーツミュージックを中心に取り扱うレコード店「マンハッタンレコード」のストアマネージャー。
清川正敏(きよかわ まさとし)
1980年に創業し、1993年に現在の宇田川町に移転。現在はヒップホップ、R&Bやそのルーツミュージックを中心に取り扱うレコード店「マンハッタンレコード」のストアマネージャー。

―「渋谷」という街だからこそ生まれた特色、渋谷だったから良かったことなどありましたか?

清川:お店には、最新のヒップホップのマーチャンダイズからソウルやJAZZのレコードまであるので、幅広い年齢層の方にご来店して頂いています。「渋谷」の特色は、商業施設など新しい建物や、タピオカ屋さんなど流行のお店が増えていくなか、弊社含め古い建物や路地が共存しているところかと思います。流行に敏感な若者もいれば、レコードの袋を持ったおじさんもいる街。新しいものを受け入れながら、古いものから学ぶ事が出来るという点では、ヒップホップというジャンルのサンプリング文化やDJ文化と似た部分があるかと思いますね。

―宇田川町が「レコードの聖地」と呼ばれた1990年代からサブスク全盛の現在まで、お店を続けてこられた理由、秘訣はどこにありますか?

清川:レコード店としての「マンハッタンレコード」の他に、レーベルとして「マンハッタンレコーディングス」があり、サブスクやCDなどレコード以外のフォーマットで音楽に接されるお客様にも、レコード店としての独自のフィルターを介してサービスを提供出来ている点が大きいかと思います。

―なるほど。そういった特徴を持つお店には、どんなお客様が多いのでしょうか。

清川:幅広い年齢層のお客様にご来店頂いていますが、特筆するとしたら特に多いのは海外の方です。現状、店舗再開からそんなに経っていないので「コロナ以前」の話になってしまいますが。

「アメリカから、アメリカ原産のヒップホップレコードを買いに来る人がたくさんいる」と他業種の方に話すと不思議に思われますが、流通量に対して当時かなりの割合が日本に輸入されていたのと、日本人はレコードにも丁寧で優しいため保存状況が良かったこと、「レコードの聖地」である宇田川町のネームバリューで来られる方がかなりいることが大きいと思いますね。

―お客様との、印象に残っているエピソードはありますか?

清川:特に印象に残っているのは、「GUINNESS RECORDS」(Nujabesの店:2010年に閉店)「STILL DIGGIN'」(現在はオンラインショップに移行)、「SAVAGE!」(MUROの店:2008年に閉店)、「CISCO」(2007年に閉店)の場所を尋ねてくる外国の方が週に1人はいて、しかも既に移転や閉店されている事は知っていて聖地巡礼していたことです。「お店のあった場所で写真を撮ってくれ」と頼まれたり、「Nujabesのレコードはないのか?」「MUROのテープはないのか?」と聞かれると、同じ日本人として誇らしい気持ちになります。

―レコード以外のグッズなども展開されていますが、定番の売れ筋、イチオシ商品を教えてもらえますか?

清川:「マンハッタンレコード」のロゴ、通称「mロゴ」を使ったグッズ商品が人気です。今年が40周年のアニバーサリーイヤーで、創業当時のショッパーをデザインに落とし込んだグッズ商品も好評です。

清川:イチオシは近年人気の高い「VINTAGE RAP TEE」です。当時の配色 / フォント等、独特の質感があり、1990年代~2000年初期のモノが多いのですが、既に30年近く経過していると考えると歴史的価値含め、一見の価値があると思います。

―渋谷は多様な文化や人が集まってくる場所ですが、渋谷で過ごされている中で感じた渋谷の好きなところ、刺激や影響を受けた文化があれば教えてください。

清川:私は平成元年生まれの30歳で、宇田川町が「レコードの聖地」と呼ばれた時代をギリギリ経験できた世代。10代の頃にそこで受けた刺激が大きいです。ビルの一室にあるジャンル毎の専門店に恐る恐る入ったり、「シスコ坂」にお兄さんたちが溜まっているのを抜けて、「BOOTSTREET RECORDS」(2011年閉店)で当時の最新のMIX CDを買ったり、足を運んでこそ感じられたドキドキや、その時その場所のエネルギーや空気を体験できたのは貴重な経験だと思っています。マンハッタンレコードで働き始めてからも、宇田川町という土地だからこその学びがたくさんあります。

―そんな清川さんの、渋谷で好きなお店というと?

清川:昼休みは大体スタッフと一緒にレコード屋さんに行きますね。特に好きなお店はファイアー通りにあるレゲエレコード店の「Coco-isle Music Market」さんです。専門店ならではのレコメンドをサウンドシステムで試聴させてもらうと、「今買わないと!!」と思わせられます。ビールも飲めるレコード屋さんで、夕方時は日差しの入り具合とレゲエが心地良く、つい時間を忘れてしまいます。

清川正敏

―新型コロナウイルスの影響で多くの困難を経験されていると思います。ここまでどういった状況だったのか、教えてもらえますか?

清川:緊急事態宣言時にはお店を開ける事が出来ず、通販サイトからの出荷も週に2度まで減らし、出勤時の移動からスタッフ間含め極力人と接しないよう努めました。自転車で通勤していましたが、渋谷に人がほとんどいない状況を想像すらしたことがなかったので、曇りがかった天気の中、人がいない宮下公園付近で外出自粛を促す動画が流れていたのが印象に残っています。

スタッフ以外に誰もいないお店から、通販の出荷業務を行なっていたこの期間が非常に辛かったので、現在もお客様のご来店こそ減ってはいますが、晴天のなかお店を開けられてお客様が来て下さることに喜びを感じています。

―コロナ禍で新たに始めた試み、工夫などはありますか?

清川:通販サイトを海外からも購入できるようにしました。まだ浸透していないのでこれからですが、先ほどお話ししたように海外の方から見た「渋谷」や「日本」の印象もあると思うのでうまく発信出来たらと思います。

―特に困っていらっしゃること、そしてその解決のために必要なサポートで期待されていることを教えてください。

清川:お店で中古放出SALEなど定期的に行っていたのですが、現状を踏まえると「お店に来てください!」と大手を広げてはなかなか言えない状況にもどかしさがあります。通販サイトへの商品アップ、頑張っていますので是非そちらご覧いただけますと嬉しいです。渋谷に用事がある際には是非お立ち寄りください。

―今回の出来事で、渋谷の文化にはどのような変化があると思われますか?

清川:「渋谷の文化」という大きな枠だと私にはなんとも分かりませんが、こういう事態になって変わる部分がフォーカスされがちですが、時代が変わってもずっとレコード屋さんがあるのと同じように、変わらない部分も大切に出来たら良いなと思います。

―守りたい渋谷の魅力や、その理由を教えていただけたら幸いです

清川:クラブやレコード店など、音楽がたくさんある街で守りたい渋谷の大切な文化だと思っています。

清川正敏

サイト情報

『YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング』
『YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング』

23万人の渋谷区民と日々訪れる300万人もの人たちが支えてきた渋谷の経済は“自粛”で大きなダメージを受けました。ウィズコロナ時代にも渋谷のカルチャーをつなぎとめるため、エンタメ・ファッション・飲食・理美容業界を支援するプロジェクトです。

店舗情報

マンハッタンレコード

〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町10-1 木船ビル
03-3463-3510
営業時間 12:00-21:00

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