VISIONに聞く 渋谷の夜の大変化と、救いだったお客様の言葉

VISIONに聞く 渋谷の夜の大変化と、救いだったお客様の言葉

2020/08/28
インタビュー・テキスト・編集
黒田隆憲
写真:天田輔

国内のアーティスト / DJはもちろん、アリアナ・グランデやジェフ・ミルズ、エイサップ・ロッキーなど海外の錚々たるアーティストが数多く出演し、渋谷のクラブカルチャーを牽引してきた「SOUND MUSEUM VISION」。道玄坂の地下、4フロアあるスペースは最大およそ1000人を収容。そんな「渋谷最大級」を誇るクラブには、他店と比べても比較的幅広い年齢層の利用客が良質な音楽を求めて夜な夜な集まっていた。今年に入り、新型コロナウイルスの影響で渋谷の街が様変わりする中、クラウドファンディングなど様々な取り組みによって店舗存続の道を探ってきた「VISION」。現在は、感染拡大防止ガイドラインの徹底に取り組みながら営業を続けているが、まだまだ予断を許さない状況が続いている。メディアなどから「夜の街」と十把一絡げにされ、矢面に立たされたものの一つがクラブカルチャーであることは間違いない。私たちに「音楽の素晴らしさ」を発信し続けてくれたクラブと、その文化を守るために出来ることは何があるのか。事業部長の乗田公平さんに聞いた。

YOU MAKE SHIBUYA連載企画「渋谷のこれまでとこれから」

新型コロナウイルスの影響で激動する2020年の視点から、「渋谷のこれまでとこれから」を考え、ドキュメントする連載企画。YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディングとCINRA.NETが、様々な立場や視点をお持ちの方々に取材を行い、改めて渋谷の魅力や価値を語っていただくと共に、コロナ以降の渋谷について考え、その想いを発信していきます。

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この状況を頑張って乗り越え、恩返ししなければという想いに駆り立てられました。

―「SOUND MUSEUM VISION」(以下「VISION」)はどのようなクラブなのか、お店の特徴など教えてください。

乗田:「VISION」は4フロアからなる、渋谷最大級のキャパシティを誇るクラブです。音楽性にこだわり、ジャンルはヒップホップからテクノまで幅広く、開催されるパーティーによって様々な色があります。中心に据える音楽のジャンルは時代によってどんどん変えていき、テクノ中心の時代やEDM中心の時代、ヒップホップ中心の時代など様々ですが、変わらないのはアーティスト / DJの質です。そこは一貫して、自分たちが一流と信じる人たちを招聘しています。特に海外のアーティスト / DJは昔から積極的にブッキングしていますね。

乗田公平(のりた こうへい)<br>VISIONの前身となるクラブ「代官山 AIR」を経て、VISION立ち上げから関わる。BARマネージャー、店長と経て現在は部長を務める。主にVISIONの企画 / ブッキングを担当。
乗田公平(のりた こうへい)
VISIONの前身となるクラブ「代官山 AIR」を経て、VISION立ち上げから関わる。BARマネージャー、店長と経て現在は部長を務める。主にVISIONの企画 / ブッキングを担当。

―9年という歴史の中で、「渋谷」という街だからこそ生まれた特色、「渋谷」だったから良かったことなどありましたか?

乗田:若いエネルギーに満ち溢れていてパワーをもらえるということと、新しいものがどんどん出てきて常に刺激的で、インプットの機会がすごく多いことです。

オープン当初はちょうどEDMが台頭してき始めた時期でしたが、「VISION」はテクノとハウスを中心に営業していました。2012年からはEDM、ヒップホップと時代に合わせてどんどん新しいものを取り入れていきました。これって渋谷にお店を構えていたからだと思うんです。この街は時の流れが特に早いので、常にアンテナを張っていないとすぐに取り残されていってしまう。そのためにお店も新しいものを受け入れ、変化していかなければならなかったんです。そこで止まっていたら今の「VISION」はなかったと思います。

―そんな「VISION」には、どんなお客様が訪れていますか?

乗田:「VISION」は渋谷のクラブの中でも比較的年齢層が幅広く、20代前半から30代後半までまんべんなくいらっしゃいます。その中でもアパレル関係のお客様が多いためか、お洒落な方が多い印象です。

―これまで「VISION」には、アリアナ・グランデやジェフ・ミルズ、エイサップ・ロッキーなど海外の錚々たるアーティストが数多く出演し、ご来場されたお客様に忘れ難い体験をたくさん届けてくださいました。中でも乗田さんが印象に残っているアーティスト、あるいはイベントを教えてもらえますか?

乗田:印象に残っているパーティーは数え切れないくらいあるのですが、強いて言えば2015年に開催したBUDDHA BRANDのDEV LARGEさん追悼イベントですね。錚々たるラインナップが集まったことはもちろんですが、平日開催にもかかわらずたくさんのお客様が来場され、入場規制がかかっても外に並んでいるお客様が帰ろうとせず、ずっと並んでいたことがとても印象的でした。1000人以上は並んでいたと思います。「中に入れなくてもいいからお金だけ払うよ」というお客様もたくさんいらっしゃって、それもよく覚えてますね。

―渋谷は多様な文化や人が集まってくる場所ですが、乗田さんが好きなお店というと?

乗田:百軒店の奥にある「RECORD BAR analog」というお店によく行きます。私の元上司が経営しているお店なのですが、その名の通り「レコードバー」です。このデジタル時代にレコードのみを取り揃えているのですが、それが新鮮で。お店ではレコードをディグったり、自分で好きな曲をリクエストしたりしてます。行くとお客さんの中に知り合いがいることが多く、普段あまり話さない人との交流もそこであったりするので、とても居心地がいいです。

―新型コロナウイルスの影響で多くの困難を経験されていると思います。ここまでどういった状況だったのか、教えてもらえますか?

乗田:緊急事態宣言が出て休業をしてからは、いつ再開できるかもわからず先のブッキングもできずにいたので何かしら売上を残すために配信イベントの企画を中心にやっていました。先々の決まっていたイベントも、全て中止の連絡を主催者様や出演者様にしたり、他に何か展開できる事業はないかひたすら会議したり。従業員数も多いので彼らの生活の心配もあり、助成金などの情報を調べて従業員に共有していましたね。

―クラウドファンディング「SAVE THE SOUND MUSEUM VISION」では目標金額を上回る資金が集まったかと思いますが、実際にやってみていかがだったでしょうか。

乗田:厳しい状況の中、クラウドファンディングは「VISION」にとって希望の光でした。ご支援いただいた方からは、たくさんの温かいお言葉を頂戴しました。正直、想像以上の数のメッセージに驚き、そして何より感謝の気持ちでいっぱいです。これからどうなっていくのか、考えても先が見えずとても不安な日々を過ごしていましたが、ご支援いただいた方からのメッセージに本当に救われました。

コロナ禍で大変なのは皆一緒だと思うんです。そんな中で「VISION」のために支援いただいたことは感謝してもしきれませんし、同時にこの状況を頑張って乗り越え、恩返ししなければという想いに駆り立てられました。営業再開初日に従業員を集め、いただいたメッセージを一つずつ皆んなで読み上げていき、支援者様お一人ひとりの想いを従業員一同胸に刻みました。

―他にコロナ禍で新たに始めた試み、工夫などありますか? また、その手応え、反響はいかがでしょうか。

乗田『GH STREAMING』という動画配信コンテンツを新しく立ち上げました。「VISION」単体ではなくグループ全店での取り組みなのですが、基本的に「VISION」「Contact」「Bridge」「HEART」いずれかの店舗の指定イベントを、無料で見ることができます。アーカイブは有料で、月額490円のサブスクリプションサービスとなります。まだまだ有料会員数が少ないのでもっと増やしていきたいですね。

―現在、営業も再開されていらっしゃいますが、特に困っていらっしゃること、そしてその解決のために必要なサポートで期待されていることを教えてください。

乗田:やはりまだまだ全然渋谷の街に人は戻ってきておらず、「VISION」でいうとコロナ前の3分の1以下の入客状況です。平日も週末も、夜は本当に人がいなくなりましたね。というのも、「夜の街」というワードでのメディア報道や、22時までの営業自粛要請などで、夜の時間の出足がかなり遠のいているように見受けられます。

我々のように夜営業しているお店はもろにダメージを受けてますが、これって根本的に感染対策していないお店とその意識が低い利用客が問題なだけで、夜の形態のお店は何も悪くないと思うんですよね。なんなら昼間に稼働している人の数の方が圧倒的に多いわけですし。

―全くその通りですね。

乗田:ですが報道や要請によって、そういったマイナスイメージができてしまうと経営的にはかなり苦しくなる。何かしらの補償がほしいところではありますね……。また、来ていただけるお客様にも感染予防の意識は高く持っていただきたいと思います。

―今回の出来事で、渋谷の文化にはどのような変化があると思われますか?

乗田:「渋谷の文化」というところでいうと、どう変化するとかは正直私は想像つかないです。ただ、長いこと抑圧された反動は何かしらあるとは思っています。特に渋谷という若さに溢れた場所では、また新しい何かが生まれるのではないでしょうか。

―最後に、守りたい渋谷の魅力やその理由を教えてください。

乗田:渋谷は美術館や映画館が多く、劇場もあり芸術系の施設が多いですよね。それにショッピングビル、クラブやライブハウス、カフェやバーなど様々な形態の飲食店がたくさんあり、全てがひとつの街で完結するとても魅力的な街だと思います。でもやっぱり渋谷から夜の遊びをとったら、その魅力は半減するのかな。渋谷カルチャーは夜から発信していく部分がかなり大きいのかと。

クラブやバーを中心に、様々な人が集っていて「人」対「人」の交流が生まれる。そのパワーとエネルギーがそこかしこに点在している。それが夜の渋谷の魅力だと思うんです。これがないとつまらないですね。

乗田公平

サイト情報

『YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング』
『YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング』

23万人の渋谷区民と日々訪れる300万人もの人たちが支えてきた渋谷の経済は“自粛”で大きなダメージを受けました。ウィズコロナ時代にも渋谷のカルチャーをつなぎとめるため、エンタメ・ファッション・飲食・理美容業界を支援するプロジェクトです。

店舗情報

SOUND MUSEUM VISION

〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂2-10-7 新大宗ビルB1F
TEL:03-5728-2824

プロフィール

乗田公平(のりた こうへい)

VISIONの前身となるクラブ「代官山 AIR」を経て、VISION立ち上げから関わる。BARマネージャー、店長と経て現在は部長を務める。主にVISIONの企画 / ブッキングを担当。

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