すべてオンラインだけになってしまったら、みんなと共存して生きていく意味があるのかなと思ってしまう。
―コロナの影響は「れもんらいふ」にもありましたか?
千原:2ヶ月間、収入が全くない状況を初めて経験しました。一応、毎日何かしら企画を練るなど仕事はしているんですけどね。コロナで撮影ができなくなり、そうするとデザインを組んで納品することも難しくなるので、お金が入らないんです。今後は撮影が「ない」状態も考えていかないとダメだなということは、この2ヶ月間で思いましたね。しかも、今動いているプロジェクトの多くは、「来年くらいにはコロナも落ち着いている」ことが前提なので、落ち着かなかったら本当に全て止まってしまう。
―それを考えると本当に怖いですよね。
千原:ただ、新たなビジネスモデルを考える機会にはなったし、僕らとしてもそこには挑戦していきたいと思っています。
―例えば、どんなことをこれから考えていますか?
千原:今はどの企業でもリモートワークが導入され、オンライン販売もどんどん増えていますよね。様々なことが、ネットを通じて行われるようになっている。そのことを理解し受け入れつつも、半分くらいは疑問に思っているんです。「それで本当にいいのか?」と。僕の中では、この2ヶ月で逆に「リアル」を求めるような、何かそういうことを考えられないかなという気持ちがあるんですよね。ソーシャルディスタンスをうまく保ちながらも、限定的でいいからリアルな場、リアルな状況を作り上げたい。むしろ、そういうお店やサービスが「体験」として求められるのではないかと。
―「リアルな体験」ですか。
千原:大好きな志村けんさんが亡くなった時に、「志村けんさんありがとう」広告を作ろうと思ったんですよ。志村さんに対する思いを綴ったポスターを勝手にデザインして、東村山の居酒屋30軒くらいに電話し「自粛要請で閉まっているお店のシャッターに貼らせてください」と頼んだら、みんな快く応じてくださって。しかも、東村山のバスを広告ジャックしようと思えばとても安くできるし、駅前のB倍ポスターも1週間で10万円くらいなんですよ(笑)。
今はシャッターが閉まっているけど、開いたらそこが志村けんさんの街なんだということで活性化もあるかもしれないし、それ自体が写真を撮って、ネットに上げてくれて「こんなポスターがあった」って紹介してくれたら、それはまたオンラインにもつながっていく。ハッシュタグをつけて言葉を拡散するのもいいのですが、リアル自体にハッシュタグが付いてくるような展開があっても面白いのかなと思ったんです。その後、コロナの状況がどんどんシリアスになっていき、最終的には実現しなかったのですが。
―それは残念でしたね。確かに今は、仕事にしても遊びにしてもオンラインが加速する一方です。
千原:どこのクライアントと話していても、「お店を畳んでオンラインだけにします」とか、「フリーペーパーやカタログも紙ではなくて、インターネット上でやります」という風潮です。もちろん、ウェブサイトとか、それこそCINRAさんもそうだけど(笑)、ネットの良さはあるとして、それを際立たせるにはリアルがあるからこそだと思うんですよね。
すべてオンラインだけになってしまったら、みんなと共存して生きていく意味があるのかなと思ってしまうし、「渋谷にいる意味あるの?」という感覚になりますよ。今は、東京を離れてリモートワークをするという話も聞くんですけど、僕は憧れた街だったし、自分が家と会社の往復でしんどかった時期に、渋谷の街を歩くことでクリエイティブを感じられた。そういうところは残したいんです。
―僕は、緊急事態宣言が解除されて久しぶりに街に出かけたときに、妙にぐったりしてしまったんです(笑)。リアルでは、無意識のうちにたくさんの情報を受け取っていたのだと痛感しました。
千原:不思議なんですよね。なんですかね、あの高揚感。コムデギャルソンのお店に入ると、たとえ買わなくともものすごくクリエイティブな気持ちになるじゃないですか(笑)。それってリアルでしか感じられないことですし、街を歩くこととか、そういうリアルが失われつつあるからこそ、もう一度その大切さを確認したいんです。デザインに関しても、そこを守っていかないと。屋外広告に憧れて上京してきたのに、それが無くなってしまうのは寂しいんですよね。
必要なものが分かったのと同時に、要らないものもわかった。今はその端境期にいるのかもしれません。それもまた、渋谷に住んでいるからこそ感じられる気持ちなのかなとも思います。だから、渋谷に事務所があって良かったなと思っていますよ。
―改めて渋谷の魅力について教えてもらえますか?
千原:渋谷や原宿発信のカルチャーって、意外と最初のスピード感でいうと規模感が小さかったりするんですよね。パルコの地下で個展をやっていたとか、裏原宿の小さなカフェでパーティーをやったとか、テレビCMや大きな屋外広告とは違い、そういう地元の小さいカルチャーが点々とあって、それが繋がっていつか大きなものになっていく。それが面白さだと思うんです。
―だからこそオルタナティブだし、規模が大きくなってもコアな部分はエッジが効いているのでしょうね。
千原:確かにそうですね。その方が、いろんな人と接している感じもある。渋谷はそういう街なのかなと思いますね。
サイト情報
- 『YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング』
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23万人の渋谷区民と日々訪れる300万人もの人たちが支えてきた渋谷の経済は“自粛”で大きなダメージを受けました。ウィズコロナ時代にも渋谷のカルチャーをつなぎとめるため、エンタメ・ファッション・飲食・理美容業界を支援するプロジェクトです。
プロフィール
- 千原徹也(ちはら てつや)
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1975年京都府生まれ。広告、ブランディング、CDジャケット、装丁、雑誌エディトリアル、映像など、デザインするジャンルは様々。H&M GOLDEN PASSキャンペーン、「Onitsuka Tiger×Street fighter V」ディレクション、adidas Originals店舗ブランディング、久保田利伸 「Beautiful People」、桑田佳祐 「がらくた」、関ジャニ∞ アルバム「ジャム」、吉澤嘉代子MV&ジャケットデザイン、ウンナナクールのクリエティブディレクター。その他にも、アートマガジン「HYPER CHEESE」、「勝手にサザンDAY」企画主催、J-WAVEパーソナリティ、れもんらいふデザイン塾の主催、東京応援ロゴ「KISS,TOKYO」プロジェクトなど、活動は多岐に渡る。