もっとPCR検査をやらせろとか、そんなの曲にする価値あります?
―コロナ以降、渋谷は変わったと思いますか?
Kダブシャイン:いや、全然思わない。緊急事態宣言が出たときは、ゴーストタウンになってると思ったけど、銀座に行ったらもっと人がいなかったから、渋谷はまだマシだなと思って。
―ご自身のお仕事への影響はどうでした?
Kダブシャイン:だいぶ引き潮な感じにはなったけど、もっとエグい人はいるだろうから、そういう人に比べれば落差は小さいと思う。5が3になったくらい。100が1とかになったわけじゃないから。
―コロナを受けて新しく始めたことはありますか?
Kダブシャイン:これを機に何かして儲けてやろうっていう気はまったく起きないですね。僕は弱いのか、やさしいのか、世の中の大勢が無念だと思っているときに、自分の成績を上げたいとは思わないんですよ。痛みを分かち合えばいいじゃんって思うから。
震災のときもそうだったんですよね。ボランティアとかチャリティとかをやりすぎて、ビジネス的にはだいぶ自分の首を絞めちゃったけど。でも、今回も何かやるなら、この時期はできるだけ無償がいいかなと思っていて。そっちもお金ないんでしょ。だったら別にいいですよみたいな。そこはプロとして甘い部分だと自分でも思いますけど。
―このインタビューも無償で受けていただいて、恐縮です。
Kダブシャイン:まぁ、地域貢献ですよね。
―Kダブさんは社会的なメッセージを持った曲も多いですけど、いまの状況を受けて曲を作ろうという感じにはなっていないんですか?
Kダブシャイン:思ってますよ。テーマとか、途中まで書いているものはいっぱいあるけど、日々刻々と入ってくる情報が変わるし、いろんなものを見ていると何が本当なのかわからなくなってきて、いまはパンデミックということ自体に疑念を持つようにもなっているんです。
最初は世の中も「身を守れ!」みたいな感じだったと思うけど、いまは「このままだと、みんなコケちゃうんじゃない?」っていう心配のほうが強くなってきて。昔だったら、その不安を曲にしていたかもしれないけど、いまはもっと現状を分析した曲にしたいから、もう少しリサーチが必要かなと思っていますね。
―そういう作品を発表するときは、やっぱり綿密に調べるんですか?
Kダブシャイン:反射的に作っている曲もありますよ。3.11のときに出したフリースタイルみたいなものは、1週間くらいで作ったし。アラブの春があったときも曲を作ったけど、後から見ると思っていたものと構造が違っていたりするから、飛び込んできた情報を鵜呑みにして曲にするのは拙速かなと思うようになってきたんですよね。最初にみんなが文句を言ってたのって、マスク不足とかPCR検査とかでしょ? もっとPCR検査をやらせろとか、そんなの曲にする価値あります?
―それを曲で訴えられたら当惑しそうです。
Kダブシャイン:ただ、2016年に出した『新日本人』というアルバムがあるんですけど、そのなかにある“ザ ジャッジメントデイ”とか、“プラネットボム”とかを聴くと、そういうことが起きてもおかしくないよねみたいなことをラップしてて、ちょっといまを予見していたというか。
Radio Aktive ProjeqtっていうDJ OASISと二人でやっているユニットでも、“宇宙戦争”という曲で伝染病が世界を支配するんじゃないかみたいなことを言ってて。“Neworlder”という曲でも、いまの権力構造のなかで戦うには、結局人を愛する気持ちしかないんじゃないかみたいなことを言ってたりするんです。
Kダブシャイン“ザ ジャッジメントデイ”MV
―まさにいまの状況が当てはまりますね!
Kダブシャイン:僕はいま、戦争が起きていると思っているんですよ。ミサイルが行ったり来たりするような戦争ではなく、見えないミサイルがお互いの社会構造を破壊しているというか。そのなかで人種差別の問題とかもあったりして、何が敵だか味方だかわからなくなっている。だから曲にしなきゃいけないなと思っていることはいっぱいあるけど、ちょっと追いきれてないというか、理論武装できてないから、曲にするにはまだ早いかなって。
別に僕は預言者じゃないから、「絶対にこうなりますよ」とは言えないけど、「いまみんなこんな感じで辛い思いしているよね」「このままいくとこうなっちゃうんじゃないの?」みたいなことは全部、さっき挙げたような曲で表現しているので、仕事してないわけじゃないぞと(笑)。でも、これからの世の中がどうなるかはちょっとわからないですね。11月のアメリカ大統領選だけでも大きく変わると思うから。
サイト情報
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プロフィール
- Kダブシャイン(けーだぶしゃいん)
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1968年5月8日生まれ、東京都渋谷区出身。17歳でアメリカに留学し、以降約8年間を断続的にアメリカで過ごす。1993年にZEEBRA、DJ OASISとともにキングギドラ(現KGDR)を結成、リーダーを務める。1995年にアルバム『空からの力』でデビュー。社会性の強いメッセージと日本語での押韻を完成させた作品として、ヒップホップシーンに多大な影響を与える。その後もソロやRadio Aktive Projeqtで活動するほか、コメンテーターとしても数々のメディアに出演。2020年7月から放送中のテレビ朝日『フリースタイルティーチャー』では、ヒップホップの歴史や伝説的人物を解説する「教授」として活躍。