コロナが暴き出したことのひとつは、わざわざその場所に集まることの無根拠性みたいなもので、会社が一番そう。
―大きな容れ物で新しいトライをするという意味では、パルコも東急もチャレンジは始まってきていますが、今の渋谷はコロナの影響で個人商店がきつくなっていますよね。前編で話していただいたように、タワレコやHMVなど大型店舗と小さなレコ屋が共存していたからこそ、「音楽の街」としての渋谷の磁場が生まれていたことを思うと、個人商店がさらに減って、それを目当てに渋谷に来る人が減るというのは、ゾッとしますね。
佐々木:今コロナが怖いって人はコミュニケーションを一方的にリジェクトしちゃってるけど、根本的な解決がないまま過ぎていくとーー「ウィズコロナ」ってそういうことだと思うけどーー新しいコミュニケーションの仕方を模索せざるを得ないと思うんです。僕自身そんなに人に会わなくてもいいタイプの人間なので、「全部Zoomになった、やった!」みたいな感じもありつつ、でもZoomだってコミュニケーションだからね。
コロナが暴き出したことのひとつは、わざわざその場所に集まることの無根拠性みたいなもので、会社が一番そう。コロナが変えたわけじゃなく、コロナが暴いたひとつの事実で、でもだからこそ、「じゃあ、どうして場所が必要なのか?」ってことを今後は考えるべきだと思う。
―「もう場所は必要ない」じゃなくて、これまでスルーしてきた無根拠性を顧みた上で、もう一度「なぜ場所が必要なのか?」を考えるべきだと。
佐々木:そう。「全部オンラインでいいじゃん」って、それはそれで可能性を感じるけど、でもだからこそ、せっかくある場所をただ放り出すんじゃなくて、次のステップにどう繋げるかを考える方がいいなって。場所を運営するのってきついから、やめるのは簡単なんです。考えなくてよくなるし。だから余計に、変化をただネガティブに捉えて諦めない方がいい。
うちらも三鷹に小さな場所(SCOOL)を持っていて、今後はオンラインイベントもやっていこうと思ってるけど、課金と場所をどう繋げるのかって、都市の問題とも深く関わってると思う。インターネットがどんどん便利になっても、誰も外に出なくなったわけじゃなくて、むしろフェスの客とかは増えたわけで。コロナにしても、起きたことはもうどうしようもないから、それに対してどう考えていくかだと思いますね。
―もしも佐々木さんご自身が渋谷の街づくりにコミットしていくとすれば、どんな手段が考えられますか?
佐々木:HEADZってそもそも何をやってるかよくわかんなくて、ある時期から「音楽レーベル」って言ってるけど、そうじゃないこともいっぱいやってて、最近は「文化系サークル」って言ってるんだけど(笑)、とにかく何か思いついたときには何でもやれる回路にはなってるわけ。渋谷に関しては……今日の話の流れも踏まえて考えるなら、HEADZとして一番やれるかもしれないのは「場所」かな。ホントにやるかどうかは別として、渋谷にSCOOLみたいな場所がもしあったら、思いつくことはいっぱいあると思う。
―たとえば、その「場所」で何をするのでしょうか?
佐々木:もともといる人たちを教化するのはなかなかむつかしいよね。僕は大学で教えてるんで、「学生に向けて」っていう気持ちもあって、僕らが面白いと思うことに興味を持ってくれるよう、渋谷に来るような若者をどう誘導するかっていう。でも、ある種の教育とか啓蒙って、すぐにできることではなくて、長い時間が必要。
だったら、渋谷が失ってしまったある種の文化のあり方をまず自分たちでやってみせれば、外にいた人たちがまた渋谷に来るようになるかもしれない。それは別にすごい人数じゃなくてもよくて、それこそDOMMUNEみたいに超面白い何かが起きてるってことをネットで配信すれば、世界中の誰かが興味を持つこともあるだろうし。誰もが思いつくようなたくさん人が集まることじゃなくて、「これをやったらどれくらい集まるかな?」っていうぐらいの方が面白い。それを渋谷でやるっていうのは、考えないでもないです。
―そういう場所が増えて、繋がっていくと面白くなりそうですね。
佐々木:今は文化的な施設が衛星的にある感じになっちゃってて、普通はそういうのが駅前にあるんだけど、渋谷は駅前にないんだよね。東急本店や文化村、タワレコも駅から遠いし、HMVはmodiの中にあって、すごくいい店なんだけど、全然人がいなくて。そういう場所を目当てに来る人がいなくなっちゃったっていうのもあると思うけど、全部縦割りで考えるんじゃなくて、有機的に考えられればなって。
さっきも言ったように、「どうなるかわかんないけど、面白くない?」みたいな感じのことを、10個に1個はやれるようにした方がいいと思うし、今後は守りに入ったら守れもしないってなっていくと思うんで……俺何でこんな前向きなこと言ってるのかわかんないけど(笑)。
―やはり、渋谷に事務所を構えて25年が経ち、昔ほど頻繁に渋谷を訪れることはなくなったとはいえ、それでも渋谷という場所が佐々木さんの活動の受け皿になってきたのかなと。
佐々木:それは全然ある。他の街だったら、こんなインタビューを受けることにもなってなかった気がするし、渋谷って街が持ってる独特の歴史とイメージはやっぱりあるからね。「1990年代渋谷万歳」みたいな気持ちはないけど、ある種の若者の偏った文化があり、音楽が異常に進化した時代があり、小っちゃい街だからこそ、人がどんどん繋がって、いろんなことが起きたんだと思うし。どれだけ街が変わっても、街の広さは変わらないからね。
サイト情報
- 『YOU MAKE SHIBUYAクラウドファンディング』
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23万人の渋谷区民と日々訪れる300万人もの人たちが支えてきた渋谷の経済は“自粛”で大きなダメージを受けました。ウィズコロナ時代にも渋谷のカルチャーをつなぎとめるため、エンタメ・ファッション・飲食・理美容業界を支援するプロジェクトです。
書籍情報
- 『批評王——終わりなき思考のレッスン』
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2020年8月26日(水)発売
著者:佐々木敦
価格:2,700円(税込)
発行:工作舎
プロフィール
- 佐々木敦(ささき あつし)
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文筆家。1964年、愛知県名古屋市生まれ。ミニシアター勤務を経て、映画・音楽関連媒体への寄稿を開始。1995年、「HEADZ」を立ち上げ、CDリリース、音楽家招聘、コンサート、イベントなどの企画制作、雑誌刊行を手掛ける一方、映画、音楽、文芸、演劇、アート他、諸ジャンルを貫通する批評活動を行う。2001年以降、慶應義塾大学、武蔵野美術大学、東京藝術大学などの非常勤講師を務め、早稲田大学文学学術院客員教授やゲンロン「批評再生塾」主任講師などを歴任。2020年、小説『半睡』を発表。同年、文学ムック『ことばと』編集長に就任。批評関連著作は、『この映画を視ているのは誰か?』(作品社、2019)、『私は小説である』(幻戯書房、2019)、『アートートロジー:「芸術」の同語反復』(フィルムアート社、2019)、『小さな演劇の大きさについて』(Pヴァイン ele-king books、2020)、『これは小説ではない』(新潮社、2020)他多数。